握力を鍛えると血管が若返る?血管の老化は突然死を招く!

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患者さんから

「握力が弱いと血管がボロボロで早死にするって、テレビで見たんだけどホント?」

というご相談がありました。

確かに、年配になると瓶のフタやペットボトルのフタがなかなか開かなかったり、

買い物かごを持つと手が疲れやすくなったりしますよね?

本当に握力が弱いと早死にするのでしょうか?


握力と血管に何の関係があるのでしょうか?


握力を鍛えると血管は若返るのでしょうか?

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握力が落ちていませんか?

年齢と共に筋力が落ちる事はよく知られています。

確かに、加齢により筋肉を構成する筋繊維の萎縮や、繊維数の減少がみられる事が医学的に確認されています。

筋力は、筋繊維の太さや量と比例しますので、筋繊維の萎縮や繊維数の減少で、筋肉そのものが細くなり、結果的に筋力低下するわけです。

個人差はありますが、全身の筋肉量は40歳頃から急激に低下し、ピークと比べて70歳で25%ほど低下すると言われています。

当然、加齢として握力も低下しますが、運動不足などの生活習慣で個人差は大きくなります。

握力が弱くなると死亡率が高まる?

握力と健康状態の関係について、
カナダMcMaster大学のDarryl.P.Leong氏らが、世界17カ国で35~70歳の男女、約14万人を対象に、
握力と健康状態の関係を調べ、医学誌Lancetの電子版に論文を発表しました。

研究の対象に選ばれたのは、

カナダ、スウェーデン、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、ポーランド、南アフリカ、トルコ、中国、コロンビア、イラン、バングラデシュ、インド、パキスタン、ジンバブエの

17か国で、35~70歳の住民14万人です。

調査方法は、握力を左右それぞれ3回測定し、左右の最大値の平均を求めてデータにし、

調査した人の健康状態や運動量、喫煙習慣、飲酒習慣、食習慣なども調べ、体格や血圧を測定するというものです。

その後、4年間で3379人(全体の2%)が死亡し、死亡した人の内2677人(全死者の79%)で、

握力の強い人より、握力が弱い人の方が、死亡率が高い事がわかりました。

具体的には、全体として握力が5kg低くなるごとに

死亡のリスクが16%増え、
循環器疾患による死亡のリスクは17%増、
心筋梗塞を発症するリスクは7%増、
脳梗塞を発症するリスクは9%増、

だという事が判明しました。

日本でも、厚生労働省研究班が福岡県久山町で2012年に、

男性1064人、女性1463人を対象に1988年から2007年まで追跡調査し、

その間に死亡した783人のうち、

握力が弱い人ほど死亡リスクが高くなり、循環器疾患や呼吸器疾患にかかりやすかった。

という研究結果を発表しました。

この研究では、

握力が最も弱いグループ(男性35kg、女性19kg未満)は、
最も強いグループ(男性47kg、女性28kg以上)と比べて、
約4割も死亡リスクが高かったという結果が出ています。

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握力と死亡リスクの関係は?

これらの調査では、握力と死亡リスクがどのようにつながっているのかは明らかにされていません。

ただ、握力が弱いとかかりやすい病気は、

・心筋梗塞
・脳梗塞

であると、これらの調査から明らかにされています。

心筋梗塞

動脈硬化が進行し、冠動脈にできていたプラークが破裂して冠動脈を完全に閉塞してしまい、心筋に血液が完全に行かなくなる事で、心筋が壊死してしまう病気です。
この心筋梗塞は、狭心症と併せて「虚血性心疾患」と呼びますが、虚血性心疾患は毎年7万人ほどの命を奪っています。

脳梗塞

動脈硬化が進んで、脳の血管の一部が詰まると、その先にある脳細胞に酸素や栄養を供給できなくなって脳細胞が死んでしまい、その部位の脳の機能が失われるため、身体のマヒや脳の障害など、さまざまな障害が起こる病気です。
毎年約50万人が発症するとされ、日本人の死亡原因の中で高い順位にあり、後遺症を残して介護が必要となることが多く、寝たきりの原因の約3割が脳梗塞だと言われています。

これらの病気の明らかな共通点は、動脈硬化が深く関係しているという事です。

動脈硬化の原因は?

テレビでも、握力と動脈硬化の関係にスポットを当て、

軽い握力のボール運動を続ける事で血管が「柔らかくなった」という放送があったようです。

確かに、血管拡張物質であるNO(一酸化窒素)の分泌を促すボール運動で血管の「硬さ」は改善するでしょうが、

血管の「硬さ」は動脈硬化の原因の、ほんの一部に過ぎません。

動脈硬化の一番大きな原因は、血管の「硬さ」ではなく、

血中のコレステロールや中性脂肪や、これらが酸化した酸化脂質の量なのです。

コレステロールと動脈硬化の関係

コレステロールには、LDL(悪玉)とHDL(善玉)があります。

LDLが血液中で量が多くなり過ぎると、血管壁に入り込んで、酸化され(酸化脂質)、沈着します。

すると、白血球の一種である「マクロファージ」という細胞が、酸化したLDLを取り込んで、ドロドロした塊を形成します。

このため、血管壁が厚くなり、血管の内腔は狭くなる・・・というのが「動脈硬化」です。

中性脂肪と動脈硬化の関係

血液中の中性脂肪が多いと、通常のLDLより小さなLDLがたくさん出現し、コレステロールが分解される過程でできる「レムナント」とという老廃物も増えます。

小さなLDLやレムナントは、血管壁に沈着しやすく、動脈硬化を促します。

また、中性脂肪が多いと、HDL(善玉)コレステロールが減少します。

HDLには、血管壁にたまったコレステロールを回収する役目があるため、数が少なくなるとコレステロールの沈着が加速し、動脈硬化が進んでしまいます。

更に、これら以外にも、塩分の摂り過ぎや、高血糖や高血圧などが動脈硬化の原因として大きな位置を占めており、喫煙や睡眠不足も動脈硬化の原因として挙げられます。

これらに異常が出ないようにするためには、食事と運動の両方に気を付ける事が非常に大事です。

McMaster大学や厚生労働省が出した調査結果の「握力と死亡率の関係」は、

「握力が弱いから早死にする」

のではなく、

「握力が落ちないような生活習慣を持っている人が長生きする」

という事で、

握力が落ちない生活習慣とは、

「動脈硬化にならない生活をしている」

という事で、

動脈硬化にならない生活とは、

「日常の生活として、食事の摂り方や運動量が適切な生活」

を送っている。

という事になると思います。

残念ですが、動脈硬化になりたくなければ、握力の運動だけ」という楽な方法じゃなく、

食事の摂り方や運動などの生活習慣に気を付ける必要があるという事です

動脈硬化を改善して、血管を若返らせるには?

動脈硬化の進行には、生活習慣が大きく関係しており、

・食生活
・喫煙
・睡眠
・運動

などで、悪い生活習慣を送っていると、

・肥満
・高血圧
・糖尿病
・脂質異常

などを招くリスクが大きくなり、

これらの疾患は、血管が、硬く・脆く・詰まりやすくなり、動脈硬化を進行させます。

それでは、ひとつずつ説明していきます。

食生活

食生活としては、

・食べ過ぎ
・塩分の摂り過ぎ
・糖分の摂り過ぎ
・脂質の摂り過ぎ

が悪い生活習慣です。

食べ過ぎ

食べ過ぎによる肥満で、内臓まわりに脂肪がたまると、肥大化した内臓の脂肪細胞から血管を傷つける物質が分泌され、血管に炎症が起こり、動脈硬化が進行してしまいます。

塩分の摂り過ぎ

塩分を摂りすぎると体内の塩分と水分の量を調整するために血液量が増え、血液量が増える事で高血圧になり、高血圧状態が続くと血管はいつも張りつめた状態におかれて、次第に厚く、硬くなってしまい、動脈硬化に繋がります。

糖分の摂り過ぎ

体内に入った糖質がたんぱく質と結びつくことで、AGEsという老化を促進させる物質が発生します。

糖質の過剰摂取や急に血糖値が上がる食べ方をすると、AGEsをたくさん発生させてしまうので、血管が老化してしまいます。

また、糖質を過剰に摂る事は、糖尿病などの病気に繋がり、糖尿病になると肉体年齢以上の深刻な血管の老化が起こります。

糖尿病の三大合併症として知られている、「糖尿病腎症」「網膜症」「神経障害」などは、いずれも細い血管の動脈硬化が原因で、この動脈硬化で心疾患や脳血管障害のリスクも高くなっています。

脂質の摂り過ぎ

血液中の中性脂肪と悪玉コレステロールであるLDL-コレステロールを増加させる一方で、

善玉コレステロールであるHDL-コレステロールを減少させ、

LDL-コレステロールが増え過ぎると、血管にたまりやすくなり、動脈硬化となります。

これらのリスクを考えながら、食習慣を見直せば動脈硬化を回避できます。

喫煙

喫煙は、

喫煙によるニコチンは、コレステロールの変性を促進して血管内皮を傷つけ、

一酸化炭素は、善玉コレステロールを減少させて動脈硬化を促進します。

また、ニコチンは、交感神経系を刺激し、心拍数の増加や末梢血管の収縮、血圧上昇などを招き、動脈硬化に繋がります。

更に、喫煙により体内に取り入れられるフリーラジカルは、生体を構成する細胞膜の脂質や蛋白質をはじめ、DNAを攻撃して傷害を与えます。

特に、リポ蛋白質を酸化変性させて動脈硬化をひき起こすと言われています。

動脈硬化になりたくなければ、すぐにでも禁煙する事をオススメします。

睡眠

睡眠時間が短いと血糖値を下げるインスリンの感受性が低下して、糖尿病になる危険性を高めるという研究結果があります。

また、睡眠中に副交感神経が優位になり、血管を緩めますので、

動脈硬化を進めないためには、質の良い睡眠を十分に取ることが大事です。

運動

運動として動脈硬化を防ぐのに有効なものは、

・ストレッチ
・有酸素運動

です。

「筋力トレーニングも良いのでは?」

と思われるかもしれませんが、

高負荷の筋力トレーニングは血管を固くし、

中等度以下の筋力トレーニングは動脈硬化に対して何も変化が無い、

という研究結果が出ています。

どんな運動をすれば良いかは、事項で説明致します。

どんな運動をすればいい?

ストレッチ

ストレッチは、筋肉を伸ばす事で血管も伸ばされ血流が良くなります。

血流が良くなると、血管の壁から「プロスタサイクリン」という血液をサラサラにする成分が放出され、さらに血行が促進されます。

全身の血行を促すためには、出来るだけ多くの筋肉にストレッチ行う必要がありますが、

全身やっていたら大変ですので、

出来るだけ大きい筋肉へのストレッチとして、

・脇腹・背中のストレッチ
・ふくらはぎのストレッチ
・太もものストレッチ

などをするのが、効率的です。

ストレッチの注意事項は、

・ゆ~っくりした動作で
・伸び切ったところで10秒止める
・息を止めない(声を出してカウントしながら)

ですので、

この注意事項を守りながらやってみて下さい。

脇腹・背中のストレッチ①

椅子に座って背伸びをし、そのまま左右にゆっくり倒して、脇腹が伸び切ったところで止めます。

右:止めて10秒数える×5回 左:止めて10秒数える×5回


脇腹・背中のストレッチ②

椅子に座って、ゆっくり身体をひねり、手と反対側の椅子の背もたれにタッチします。背中の筋肉が伸び切ったところで止めます。

右:止めて10秒数える×5回 左:止めて10秒数える×5回


 

ふくらはぎのストレッチ

椅子に手をかけ身体を支えて、片脚を後ろへ出します。
後ろに出した脚のつま先に力をかけて、ふくらはぎを伸ばします。
ふくらはぎが伸び切ったところで止めます。右:止めて10秒数える×5回 左:止めて10秒数える×5回

太もものストレッチ

椅子に手をかけ、身体を支えます。
片方の足先を手でつかみ、引っ張ります。
太ももの筋肉が伸び切ったところで止めます。右:止めて10秒数える×5回 左:止めて10秒数える×5回

有酸素運動

動脈の「硬さ」に関しては、血管拡張物質であるNO(一酸化窒素)の分泌を促す、軽い握力のボール運動などでも血管を柔らかくしますし、家事などの軽い運動でもある程度は柔らかくできます。

ただ、動脈硬化の一番の原因は、「血管の硬さ」ではなく、

血中のコレステロールや中性脂肪や、これらが酸化した酸化脂質が一番の原因で、高血糖や高血圧も大きく関わっています。

動脈硬化を改善するには、コレステロールや中性脂肪を減らして、なお且つ高血糖や高血圧の改善もできる「有酸素運動」が非常に効果的です。

正しい負荷の有酸素運動は、体脂肪をエネルギー源として使い、燃焼させるため、すでに溜まってしまっている内臓脂肪も減少させることができます。

内臓脂肪量が減少することで、アディポサイトカイン(動脈硬化を調整するホルモン)の分泌が正常になり、

高血糖、脂質異常、高血圧、動脈硬化の予防につながります。

有酸素運動は、
息を止めて力を入れる”無酸素運動”では無く、
しっかり呼吸をしながら長時間継続して行える運動が最適です。

代表的な有酸素運動としては、

・ウォーキング
・ジョギング
・ランニング
・サイクリング
・水泳
・ダンスエクササイズ

などが挙げられますが、

球技や登山などのレクリエーションスポーツでも、運動負荷に気を付ければ適合します。

一般的な情報では、カルボーネン法という計算式で運動強度を決めるように語っている事が多いです。

※カルボーネン法
目標心拍数=(予測最大心拍数-安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数

このカルボーネン法は心拍数で運動強度を決めるものですが、

我々プロのように、

・手動で脈拍をとる事に慣れていない
・心拍数を測る機械を持っていない

でしょうから、

一般の方は、
手動で脈拍を正確にとるのが難しいですし、
運動の強度による心拍数の変化は個人差が大きいので、
別の方法で運動強度を決めた方が良いと思います。

更に、我々プロは血圧・脈拍・呼吸などの状態を基に、FITTという設定方法で個人々の運動を決めますが、

※FITT
頻度(F:frequency)
強度(I:intensity)
持続時間(T:time)
運動の種類(T:type of exercise)

これは、一般の方には難しいので、

個人差や日々の体調に合わせられる「Borgスケール」を利用して、
運動強度を判断されると良いと思います。

Borgスケール
指数 主観的な感想
6  
7 非常に楽である
8  
9 かなり楽である
10  
11 楽である
12  
13 ややきつい
14  
15 きつい
16  
17 かなりきつい
18  
19 非常にきつい
20  
※指数×10が脈拍のおおよその目安

このBorgスケールで、動脈硬化の予防に効果のある運動強度は

中強度で11~13

ぐらいですが、

わかりやすい目安としては、

「息は弾んでいるけど、話はできる」

程度の運動です。

これを、

1日30分以上、できるだけ毎日続けてみてください。

まとめて運動するのが大変なときは、朝、昼、夜と分けて行ってもかまいません。

週3回以上、合計で180分以上を目標としてください。

ただし、激しい運動はかえって内皮細胞の機能を低下させて動脈硬化を進めてしまう恐れがあり、逆効果だと考えられていますのでご注意ください。

握力を鍛えると血管が若返る?血管の老化は突然死を招く! まとめ

まとめ

1 握力が落ちていませんか?
個人差はありますが、全身の筋肉量は40歳頃から急激に低下し、ピークと比べて70歳で25%ほど低下すると言われている。
当然、加齢として握力も低下しますが、運動不足などの生活習慣で個人差は大きくなる。

2 握力が弱くなると死亡率が高まる?
カナダMcMaster大学のDarryl.P.Leong氏らの調査で、握力の強い人より、握力が弱い人の方が、死亡率が高い事がわかった。
厚生労働省研究班でも、握力が弱い人ほど約4割も死亡リスクが高かった。

3 握力と死亡リスクの関係は?
これらの調査では、握力と死亡リスクがどのようにつながっているのかは明らかにされていない。
握力が弱いとかかりやすい病気は、・心筋梗塞・脳梗塞であると、これらの調査から明らかにされており、これらの病気の明らかな共通点は、動脈硬化が深く関係しているという事。

4 動脈硬化の原因は?
動脈硬化の一番大きな原因は、血管の「硬さ」ではなく、血中のコレステロールや中性脂肪や、これらが酸化した酸化脂質の量。
これら以外にも、塩分の摂り過ぎや、高血糖や高血圧などが動脈硬化の原因として大きな位置を占めており、喫煙や睡眠不足も動脈硬化の原因として挙げられる。
これらから、食事の摂り方や運動などの生活習慣に気を付ける必要があるという事。

5 動脈硬化を改善して、血管を若返らせるには?
食生活・喫煙・睡眠・運動などで、悪い生活習慣を送っていると、肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常などを招くリスクが大きくなり、これらの疾患は、血管が、硬く・脆く・詰まりやすくなり、動脈硬化を進行させる。

6 どんな運動をすればいい?

ストレッチ
ストレッチは、筋肉を伸ばす事で血管も伸ばされ血流が良くなる。
出来るだけ大きい筋肉へのストレッチとして、脇腹・背中のストレッチ・ふくらはぎのストレッチ・太もものストレッチなどをするのが、効率的。

有酸素運動
有酸素運動は、息を止めて力を入れる”無酸素運動”では無く、しっかり呼吸をしながら長時間継続して行える運動が最適。
わかりやすい目安としては、「息は弾んでいるけど、話はできる」程度の運動。
1日30分以上、できるだけ毎日続けて、週3回以上、合計で180分以上が目標。

 

握力が弱いと、いろいろな病気にかかりやすく、早死にするというのは正解だったようですが、

それは、生活習慣の乱れによる、動脈硬化が原因だと考えられます。

動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中、動脈剥離など

「突然死」

と言われる病気のリスクを高めます。

握力だけを鍛える事で長生きするのは難しいですが、

食事や運動に気を付けて、正しい生活習慣を続ければ長生きできますから、

長生きしたい方は頑張りましょうね♪

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