介護保険を申請するには、まず「主治医の意見書」が必要になりますし、
介護保険の認定を受けてからも、介護サービスを受ける際には主治医の許可が必ず必要で、
介護保険において、主治医は絶対的な存在です。
介護保険を受ける前に主治医を選ぶ時には、医師としての能力や名声・権威を重視されますが、
実際に介護保険を受けるようになると、医師としての能力や名声・権威よりも、もっと大事な要素が「良い主治医」の条件になります。
介護保険で、利用者さんにとっての良い主治医とは、どんな主治医なのでしょうか?
実際にあった、良い主治医の代表例をご紹介します!
目次
介護保険での主治医の役割り
介護保険を申請する際には「主治医の意見書」が必ず必要になりますし、
介護保険の認定を受けた後で、介護サービスを利用する時など、あらゆる場面で主治医の許可が必要となります。
介護保険での主治医は、以下の役割があります。
- 外来や訪問診療等の患者に対する相談と助言
地域住民が訪問介護,訪問看護等の介護保険サービスを利用するには,市区町村窓口での手続き,また,各種居宅サービスを提供する指定事業者の選定などが必要なので,かかりつけ医は相談を受けたり,助言等を行う.- 「主治医意見書」の作成
介護保険サービスの利用に関して申請のあった被保険者について,市町村または本人からの依頼を受け,要介護認定の二次判定に重要な役割をもつ「主治医意見書」を作成・提出する.
- 介護認定審査会の委員として認定審査に従事
制度の要である要介護認定を行う「介護認定審査会」の委員となり,医療分野の専門家として審査判定作業に従事するとともに,審査会における二次判定のリーダーシップをとることが求められる.
- 介護サービス計画の作成時における指示・指導
要支援・要介護者に対して居宅介護支援事業者(ケアプラン作成機関)が行う介護サービス計画(ケアプラン)の作成過程で主治医として医療的部分についての指示・指導を行う.
- 介護保険にかかわる居宅・施設サービスの提供
介護保険にかかわる訪問看護・訪問リハビリテーション・通所リハビリテーション・短期入所療養介護(ショートステイ)および居宅療養管理指導の医療系居宅サービスならびに療養型病床群などの介護療養型医療施設等の施設サービスを提供する.
- 要介護者等に対する継続的な相談と助言
要介護者等が訪問看護等の居宅サービスおよび施設サービスを利用中においても,継続的な医学的な管理を通してケアプランの見直し(入院・入所施設の見直し,在宅・施設の選択など),要介護度の見直し等について相談を受け,助言等を行う.
このように、主治医は介護保険を利用している高齢者の症状・日常生活の自立度・認知症の有無・身体能力などについて、本人の状況を細かく理解している必要があり、
介護保険として自治体や事業所側では、これらを把握しているほど「良い主治医」となります。
しかし、実際に介護保険を利用している高齢者ご本人にとっては、病状などを把握しているだけでは「良い主治医」とは言えず、
たとえ医師として、世界的な権威があったとしても、利用者にとって「良い主治医」となれるのかには関係ありません。
介護保険を提供している自治体や事業所側と、介護保険を利用している高齢者の側では、
「良い主治医」
という定義が、それぞれ違うのです。
介護保険の利用者にとって良い主治医の事例!
介護保険を利用している高齢者の方々は、病気の状態が突然悪くなる事もありますし、
個人々で、考え方も価値観も皆それぞれ違います。
介護保険を利用している高齢者の方々にとって「良い主治医」の条件とは、医師としての能力や名声・権威ではなく、
自分の事を深く理解してくれる「人柄」
人間として信用できる「人格」
なのです。
そんな中、私の今までの経験の中で「良い主治医」としての代表例をご紹介したいと思います。
利用者さんの価値観を深く理解し、ケアマネを説得して下さった主治医
この利用者さんは、脊柱管狭窄症という病気で下肢の機能が低下しており、
自宅内でも、トイレや寝室までやっと歩けるぐらいに歩く能力が落ちている方でした。
歩く能力が落ちている上に、80歳代のご主人と二人暮らしの老老介護で、
外出もなかなかできず、家の中でじっとしている事が多い状況でした。
そこで、担当のケアマネさんは、
・外出する事で気分転換を図る
・リハビリで身体機能の低下を防ぐ
・ご主人以外の人達との交流を図ってストレスを解消する
・ご主人の介護負担を減らす
という目的でデイサービスの利用を勧めていました。
このケアマネさんはすごく優秀な方で、一般的なケアプランとしてはすごく良い案だったのですが・・・
この利用者さんは、若い頃から人間不信とも思えるほど人間関係に強いストレスを感じてきた方で、
「大勢の他人の中に入らなければいけないデイサービスなんかには行きたくない」
という事で、デイサービスの利用を拒否されておられました。
しかし、デイサービスに出すのがベストだと考えていたケアマネさんは、
このケアプランを見直す事無く、ご本人を何度も何度も説得していましたが、
この説得にご本人は、かなり強いストレスを感じており、
とうとう
「デイサービスに行くぐらいなら死んだ方がマシ」
「もう介護保険はいらない」
とまでおっしゃるようになりました。
それでも諦めないケアマネさんは、
「利用者さんを説得して欲しい」
と主治医へ申し出ましたが、
主治医からは、
「あの人は、自宅に居る事が好きだし、他人の中に入る事がストレスになるんですよ。他人との交流でストレスを受けたら逆効果になるんじゃないの?」
「それに、ご主人もそんなに介護に負担を感じていないし、リハビリは自宅でもできるんじゃない?」
と、逆にケアマネさんを説得し、デイサービスへ出すケアプランを見直す事になりました。
ケアプランの見直しのための担当者会議が開催された時に、今まで遠慮して何も言わず黙っていらっしゃったご主人が、
「介護に負担なんてぜんぜん感じていないし、俺も先生の言われる通りだと思う」
という意向を申し出て、デイサービスに出る案は抹消され、訪問リハビリを受けながら、ご自宅で過ごす事になりました。
その後、自宅でのんびりしながらも、ご主人と一緒に買い物にも行けるほど歩行機能も上がり、
「毎日が楽しいよ!」
と、ご夫婦共におっしゃられるようになりました。
これは、主治医がご本人の価値観をよく理解されていて、
ご本人に合った介護サービスを提案して下さったおかげで、
利用者さんご本人の生活の質を高められた「良い主治医」の例です。
休日だろうが夜中だろうが関係なく動いてくださる主治医
この利用者さんは、免疫力が落ちる病気で、すぐに熱が出るような病状の方でした。
ある日、私がご自宅へお邪魔すると、顔が真っ赤でぐったりしておられ、
明らかに熱が出ている状態でしたので、すぐに熱を測ると38.3度の高熱でした。
いつも持っていらっしゃる解熱剤も切れており、病院受診しなければいけない状態でしたが、
その日は日曜日で、休日在宅当番医を探しましたが、自宅からかなり距離があり、どうしようかと悩んでいる時、
同居している娘さんから、
「主治医の先生が何かあればいつでも連絡してね」
と、携帯番号を教えてもらっているというので、イチかバチか主治医の携帯に電話してみると、
「私もすぐに向かうから、病院まで連れてきて!」
と言って下さって、
病院へ向かうと、すぐに点滴を打って下さり大事に至らなくて済みました。
後日、娘さんから話を聞くと、以前にも深夜に熱が出て、主治医に電話をしたら
「私もすぐに向かうから、すぐ病院に連れてきなさい」
と言って下さったが、娘さんはお酒を飲んでいて運転ができない状態だったので、
それを伝えると、
「じゃ、そこで待ってて!」
とおっしゃり、
深夜にも関わらず、病院から点滴を持って自宅まで来て処置をして下さったそうです。
こんな医師としての立派な行動に、ご本人も娘さんもこの主治医に絶大な信用を持たれ、
何でも一番に主治医に相談するようになり、どんな問題でも未然に防げる環境を作られているスゴい主治医でした。
さいごに
介護保険において、主治医は介護サービスの中心であり、何をするにも主治医が判断し、指示が出てからでしか周りは動けません。
だからこそ、主治医が「病気」だけではなく、利用者さんの考え方や価値観を理解して「人間」としての部分をみて下さらないと、
利用者さんにとってのベストな介護サービスは提供できません。
主治医を選ぶ際には、医師としての能力や名声・権威ではなく、
「自分の事をどれだけ理解してくれるか?」
という部分を重視して選ぶ事が非常に大切です。