春は認知症が悪化する季節です。
私が担当した高齢者の患者さんも、
春頃に認知症が出始めたり、
悪化する方が目立っていました。
もし、あなたの身近な人が
突然おかしな言動や行動をし始めたら・・・
どう対応すれば良いのでしょうか?
現場での経験を基に、
原因から対策まで考えていきます。
目次
なぜ春は認知症が悪化するのか?
春は気温など自然環境の変化が大きく、
入学・就職・転勤など家族の生活環境も慌ただしく変化する時期で、
身辺が何かと落ち着かない状態になります。
そんな中で、知らず知らずのうちにストレスが蓄積して、
健康な方でもメンタルに問題をきたし
「四月病」と呼ばれる、
うつ病やパニック障害を引き起こすぐらいですから、
ご病気としてストレスに上手く対応できない、
認知症を持つ方には、
症状が悪化しやすい環境になるからです。
なぜストレスで認知症が悪化する?
ストレスがかかると、脳では
“コルチゾール”
というホルモンが分泌されます。
このコルチゾールは記憶の入り口である
”海馬”
という脳の機関にダメージを与えます。
記憶の入り口の海馬がダメージを受ければ
記憶障害に繋がります。
認知症の問題行動として、
記憶障害は重要な位置を占めますので、
認知症が悪化する大きな原因となります。
記憶障害って、もの忘れとは違う?
海馬が原因の記憶障害は、
新しい事を憶えられないという障害です。
対する、もの忘れは、憶えている事を思い出せない状態です。
記憶障害ともの忘れは、全く違うものなのです。
記憶障害で新しい事を憶えられないと
ついさっき言われた事や、
自分の行動・言動を憶えていない事になります。
もの忘れは、忘れた事を憶えているからこそ
自分で認識できますが、
記憶障害は、忘れている事さえ憶えられないんで、
自分では認識できないんです。
「もの忘れがひどくて・・・ボケたんじゃないかな?」
という発言は、
中高年のあるあるですが(笑)
こんな発言を聞くたび、
「忘れた事を憶えているから、まだ大丈夫ですよ。認知症は、忘れた事すら憶えられない病気ですから」
と説明します。
もの忘れは「思い出せない」
認知症は「覚えられない」
と理解していただくと、
わかりやすいかと思います。
なぜ記憶障害が悪化すると問題なのか?
健康な人間は、
相手から伝えられた事や、自分の行動を憶えていて、
周りの人達の行動を理解しますが、
認知症を持つ方は、伝えられた事も自分の行動も覚えていないので、
周りの人間がしている行動を理解できないわけです。
これが自分の意に反する事だったり、
自分を否定されるような事だったら、
私達でも「イラっ・・・」っときますよね?
認知症というのは、
感情のコントロールも難しくなる病気ですから、
自分は望んでいないご家族の行動を目にしたり、
その行動に対して
「何度も言ったはずだ」
と否定されたりすれば、
かなり「イラっ・・・」っときます。
そのイラつき自体が認知症で抑えがきかなくなっているので、
強い怒り・不信感・喪失感というマイナスの感情が
どんどん強くなるわけです。
さらに、
「なぜ自分がこんなに嫌な気持ちになっているのか?」
という原因は忘れてしまいますので、
マイナスの感情だけが残り、
このマイナスの感情がさらにストレスを生む悪循環に陥り、
問題行動に繋がるのです。
そんな時はどう対応してあげればいい?
私達にも個性があるように、
認知症の方の反応にも、ご本人の個性が反映されて、
千差万別・ケースバイケースとなります。
なので、認知症の方への対応として方程式はありませんが、
私達が現場で認知症の患者さんに対応する時、
基本的に以下の3つを注意しています。
①認知症の記憶障害を理解する。
認知症の患者さんがいらっしゃるご家庭で、
よく見掛ける光景が、
認知症の方が何か問題を起こして、
ご家族から
「もぅ!何度言ったらわかるの?!」
と、患者さんが怒られている姿です。
ご家族が「何度言えばわかるの?!」っていくら訴えても、
認知症の方は記憶障害で覚えていないわけですから、
ご本人からすれば
「あんた何言ってんの?!そんなの初めて聞いたわ!」
となるわけです。
さらに、聞いてもいないと思っている事を何度も
「言った!」
と強気で言われれば、
バカにされているような気になり、
なおさら感情的になってしまいます。
お嫁さんやお婿さん、お孫さんなら遠慮して黙っていらっしゃいますが、
実の娘さんや息子さん相手だと遠慮されないので、
大ゲンカになって、私達が間に入って
ケンカを鎮めるという事もしばしばあります。
これは、認知症の記憶障害を
理解していないから起こる事です。
認知症の記憶障害は
“忘れてしまう”
のではなく、
“覚えられない”
のですから、
何度説教しても、それは頭の中には入っていかないのです。
これを理解すれば、注意した事を
「聞いていない」
のではなく、ましてや
「わざとやっている」
のでは無い事が理解できると思います。
この問題への対応策としては、
認知症の記憶障害を理解して、
ご本人の行動に頼るのではなく
道具などを使って、
ご本人の行動をコントロールしてあげるようにしてあげて下さい。
例えば、
トイレの場所がわからなくなっていたら、
矢印などで導線を示してあげたり、
見える場所にポータブルトイレを置いてあげるなど、
環境を整えて、失敗を防いであげて下さい。
②患者さんご本人の思いを理解する
認知症の患者さんが変な事をすれば、
周りの人達からは
“異常な行動”
だと思われるのですが、
実は、患者さんご本人からすれば
ご本人なりのちゃんとした意味がある行動なんです。
一般的には認知症の患者さんへの対応として
「ご本人の言う事を受け入れて否定しないこと」が大事だと言われますが、
受け入れや否定しないという事だけで終わらず、
患者さんご本人の行動や言動を理解してあげる必要があります。
ある施設のオーナーからご相談いただいた事例で、
夜間になると下半身丸出しで施設内を走り回る患者さんが居らっしゃって、
施設としてはセクハラだと考えているけど、
ご家族にどう説明すればいいか分からないから
アドバイスが欲しいというものだったのですが、
その問題行動の時間や前後の行動をよく観察してもらったところ、
ご本人としては
「トイレに行きたかっただけ」
だというのがわかったんです。
寝ていたら尿意を催してトイレに行きたいけど、
トイレの場所を覚えられない・・・。
かと言って、誰かに尋ねるという考えにも行きつかない・・・
そんな事をしている間に漏れそうになってくる・・・
だから、すぐ排尿できるようにズボンも下着も脱いで
トイレを探して施設の中を彷徨っていらっしゃった・・・
という事が分かったんです。
それからは、寝る前に職員がトイレに誘導して
排尿を済ませてから休んでいただくようにしたら、
ピタっと問題行動が止まりました。
こんな場合の対応策としては、
認知症の患者さんご本人を疑わない事です。
認知症を患っていらっしゃっても、
ご本人は、ちゃんと常識的な行動として考えていらっしゃいます。
その常識的な行動の原因が、
記憶障害だったり、
幻覚だったり、
という、
我々には理解できないものなので、
異常な行動になっているだけなんです。
記憶障害だろうが、
幻覚だろうが、
我々には現実ではない世界でも、
ご本人は現実として行動されています。
まるで、マトリックスの世界です。
もし異常な行動があった場合は
これを頭に置きながら
「何でこんな風に考えたんだろう?」
「何か勘違いしているのかな?」
と考えれば、
上記で例に挙げた施設のケースのように
何か解決できる方法があるのです。
もちろん時間はかかりますが、
仮説を立てて・・・改善策を実行する!
これでダメなら
また仮説を立てて・・・改善策を実行する!
という事を繰り返して、
改善するまで取り組む事が大事です。
③認知症の患者さんの尊厳を保ってさしあげる。
認知症の患者さんが感情的になって問題行動を起こす原因として
「周りの人たちが誰も自分を理解してくれない」
「私をバカ扱いする」
「私を否定ばかりする」
という事が実際の現場では非常に多いです。
もしあなたが、
人生を何十年も生きてきて、
子供さんもちゃんと育て上げ、
仕事では部下からも尊敬され
敬われてきたのに・・・
自分には何の心当たりも無い事で、
いきなり周りの人間から
バカにされ
否定され
注意され
始めたとしたら、どういう気持ちになるか
想像してみて下さい。
怒り、焦り、の気持ちで興奮を抑えられないでしょう?
自信を無くしてひどく落ち込むでしょう?
こういったストレスが
認知症を確実に悪化させ
問題行動を増やしていきます。
患者さんご本人の尊厳を守ってあげて、
穏やかな気持ちで生活させてあげる事が
問題行動を減らす最良の策だと、
治療のつもりで対応してあげて下さい。
春に悪化する認知症の原因と、その対策 まとめ
・なぜ春は認知症が悪化するのか?
自然環境や生活環境の変化でストレスが蓄積するから。
・なぜストレスで認知症が悪化する?
ストレスが脳にダメージを与えて記憶障害が悪化するから。
・記憶障害って、もの忘れとは違う?
もの忘れは「思い出せない」、
認知症は「覚えられない」と理解する。
・なぜ記憶障害が悪化すると問題なのか?
認知症は、言われた事や自分の行動・言動を憶えておらず、
また感情のコントロールも難しくなるので、
周りの人達とトラブルとなり問題行動に繋がる。
・そんな時はどう対応してあげればいい?
①認知症の記憶障害を理解する。
②患者さんご本人の思いを理解する。
③認知症の患者さんの尊厳を保ってさしあげる。
お分かりいただけたでしょうか?
我々は日々、認知症の患者さんと接しています。
そんな中でいつも大切にしているのは
患者さんの個性と尊厳です。
もちろん、認知症の患者さんを介護していらっしゃるご家族は
個性と尊厳なんて甘い事を言っている余裕はありません。
重い認知症の介護は戦いですから。
それも理解した上で、
介護をされているご家族にいつもお話しするのは、
「どんな問題行動でもご本人がしたくてしているのではなく、ご本人の意に反して認知症という病気がさせている」
という事です。
検索して、このブログにたどり着かれた方はきっと
介護で苦しんでいる方だろうと思います。
あなたのお父さん・お母さん・おじいちゃん・おばあちゃん
その問題行動はご本人が望んでしている事ではないんです。
ご本人だって問題を起こしたくて起こしているんじゃないんです。
記憶障害や幻覚などの認知症の症状としての世界の中で、
必死でもがき苦しんでいっらしゃるんです。
そんな苦境の中であなたに助けを求めていらっしゃるんです。
助けられるのはあなたしか居ないんです。
そこを理解して、助けてあげて下さい。
認知症の患者さんが最期の時を迎えられた時、
認知症の介護で苦しみながらも戦ったご家族は、
必ず笑顔でいらっしゃいます。
苦しみに耐えきれず逃げてしまったご家族は、
必ず後悔の念で苦しまれます。
そんなご家族をたくさん見てきたからこそ
お願いしています。
私のできる事などたかがしれていますが、
アドバイスぐらいは出来ると思います。
もし、お役に立てる事があれば
いつでもご連絡下さい。
遠慮はいりません。
大変でしょうが、頑張って下さいね!