自称、ダイエット中の患者さんから、
「この間、天ぷら食べ過ぎて吐いたんだけど…精神的な病気じゃないかしら?」
と、ご相談を頂きました。
「ダイエットでお腹が空いてるときに、天ぷらなんか食べ過ぎたら私でも吐きますよ(笑)」
と、軽くツッコませて頂いた上で(笑)
とりあえず、かかりつけの病院を受診して、主治医の指示を仰ぐように勧めました。
確かに、摂食障害と精神疾患は関係が深いですし、
発達障害の方にも摂食障害が多いのは確かです。
摂食障害には、どんな症状があるのでしょうか?
精神障害や発達障害と、どんな関連性があるのでしょうか?
摂食障害だと思ったら、何科を受診すれば良いのでしょうか?
目次
摂食障害とは?
摂食障害とは、ストレスなどの心理的な問題で起こる、食べる行為の障害の事で、
拒食症、過食症などが知られていますが、発達障害や精神疾患とも関連するものです。
近年では、嚥下障害などの身体的な障害としての摂食障害との区別をつけるため、中枢性摂食異常症とも呼ばれます。
ダイエットから摂食障害に至るケースは以前から問題となっており、
有名人としては、
女優のともさかりえさん、遠野なぎこさん、タレントの釈由美子さん、フィギュアスケート選手の鈴木明子さん
などは、ダイエットから摂食障害になった事をカミングアウトしていますし、
海外でも、歌手のレディー・ガガは摂食障害で10年間苦しみ続け、カーペンターズのカレン・カーペンターは摂食障害で命を落としましたが、どちらもダイエットが原因になっているのではないか?と言われています。
摂食障害の特徴としては、
・体重や体型を気にし過ぎる
・自分で食欲がコントロールできない
・極端なやせ願望や太ることに対する恐怖心が強くなる
・急激な体重の変動
がみられ、
太る事に恐怖感を持ち、下剤を過剰に使ったり、自分で吐き出したりする事もあります。
身体への影響だけではなく、精神面にも
・極度な不安
・気分の落ち込み
・怒りっぽくなる
など大きな影響がみられ、
抑うつや不安症状などが現れると精神疾患への移行も考えられ、自傷行為や自殺に至る事があります。
このような症状が繰り返し発症するのも、摂食障害の大きな特徴です。
摂食障害の症状は?
摂食障害の症状は個人によって様々ですが、一般的に
・拒食症 (神経性過食症)
・過食症 (神経性過食症)
・特定不能の摂食障害
の3つの症状があります。
では、ひとつづつ特徴を説明します。
拒食症 (神経性過食症)
医学的には、「神経性無食欲症」または「神経性やせ症」と言います。
特徴として、極端な痩せ体形への願望と、肥満への恐怖心が強く、ダイエットや食欲不振などをきっかけに発症します。
さらに、
・制限型:食べる事自体を拒否して、食事を摂ろうとしない
・排出型:食後に、自分で吐いたり、下剤を大量に使って、
食べた分を無理やり排出しようとする
の2型に分けられます。
症状として、
・無気力
・集中力低下
・抑うつ
・不安の増悪
・イライラ
・低体温
・無月経
・徐脈、不整脈
・電解質異常
・骨粗しょう症
などがみられ、栄養が不足する事での低栄養や、抵抗力が落ちる事での感染症によって命を落とすケースも多く(死亡率6~7%)、治療をする事が重要な病気です。
過食症 (神経性過食症)
医学的には、「神経性過食症」または「神経性大食症」と言います。
特徴として、食べることを自分でコントロールできずに多量に食べてしまい、体重の急激な増減、下痢や嘔吐などが症状として出ます。
食べ過ぎをリセットするために、自分で吐いたりする事もあります。
過食症には、
・過食を繰り返すだけ
・過食して嘔吐する事を繰り返す
2つのパターンがあります。
特定不能の摂食障害
特定不能の摂食障害は、
拒食症や過食症の診断基準には当てはまらないが、実際に摂食の障害がある場合に診断名として使われます。
例えば、女性で摂食障害があり拒食症が疑われた場合でも、月経には問題ない場合などは、この特定不能の摂食障害という診断になります。
摂食障害の原因は?
原因としては、拒食症、過食症、特定不能なものも合わせ、嚥下障害など身体の機能としての障害とは別に分類される精神的な障害が考えられます。
医学的には、
セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンなどの”心理に影響する”神経伝達物質が関与しているのではないか?
レプチンなどの食欲を調整するホルモンに異常があるのではないか?
などと、推測されていますが、明確にはなっていません。
具体的な原因としては、
・環境
・ストレス
・遺伝
・性格
・ダイエット
などが挙げられます。
環境
拒食症の場合は、”痩せなければいけない”環境の中にいる事が、心理的に追い詰められる原因となります。
モデルやダンサー、スポーツ選手など職業として太れない環境もあるでしょうし、思春期で「かわいいと見られたい」などの環境もあるでしょうし、イジメなどのでの心理的に劣悪な環境も大きな原因となります。
ストレス
ストレスで食欲が無くなったり、無茶食いしたりした経験は誰にでもあると思いますし、太っている事を「ストレス太り」だと言い訳?している方もたくさんいらっしゃいます(笑)
ストレスで交感神経の働きが強くなる事での食欲減退や、満腹感という幸福感でストレスから逃げようとする心理が大食いを生みますが、
摂食障害の場合はもっと根深く、「デブ」とからかわれたり、太っている事で失恋したりして強い心理的圧迫を受けて拒食症になったり、
うつ病などで、食べる衝動が抑えられなくなって、異常な量を食べ、食べた事に後悔し、自分で吐いたり、下剤を使って、食べた事をリセットしようとする行為を繰り返す事が摂食障害に繋がります。
遺伝
摂食障害では、遺伝的な因子として家族性で発症する事が研究で取り上げられており、双生児研究においても摂食障害に遺伝性があることが確認されています。
これは、セロトニンや脳由来神経栄養因子に関連する遺伝子が原因になっているのではないか?と考えられています。
性格
性格として、自制心が高い真面目な人ほど摂食障害になりやすいと言われています。
「美しさとは痩せているべき」という考えから抜け出せなかったり、ダイエットでも「自分で決めた事は守る」という自制心が泥沼へ追い込んでいきます。
また、自尊心が低い自信の無い人ほど「見た目」を気にし過ぎたり、幼少期に愛情が足りなかったような人だと”美しさ”や”達成する事”を実現して、周りに「認められたい」という心理が自分を追い込む原因となります。
ダイエット
摂食障害を発症する原因として、最も注目されているのがダイエットです。
「ダイエットに失敗する事で摂食障害になる」と思いがちですが、
ダイエットに失敗するより、ダイエットに成功して結果が出たからこそ、「もっと痩せたい」と、のめり込み、徐々に歯止めが利かなくなって拒食症に至るパターンが多いです。
更に、ダイエット中のストレスの反動で、目標体重に達した瞬間に食べ物への執着心が異常に強くなり、過食症に至るケースも多いです。
摂食障害と精神疾患の関係は?
精神疾患としては、
・不安障害
・強迫性障害
・鬱病
などと強い関連があります。
不安障害
不安障害は、
環境や人・物などに対して、過剰に恐怖や不安を感じて、心理的圧迫が起こる病気です。
この心理的圧迫で、精神機能に異常をきたすと同時に、自律神経やホルモン分泌にも異常をきたし、社会生活にも支障が出てしまいます。
体重増加や、他人から「醜いと思われる」事に強い不安を感じて、摂食障害に結び付きます。
強迫性障害
強迫性障害は、
過去の失敗や他人の言動など、ちょっとした事でも、そのことが頭から離れず、それを頭から離そうと頑張れば頑張るほど尚更頭から離れなくなったり、
ちいさな事にこだわり過ぎて、何度も何度も同じ確認をくりかえして、対人関係や日常生活に影響が出てます。
体形に対して他人の言動で傷ついたり、体形や体重への異常な拘りが摂食障害へと追いやる原因となっています。
鬱病
鬱病は、
繰り返し気分が落ち込んだり、意欲がなくなったりするという「気持ちの病気」だと思われていますが、
近年では脳の機能が低下する「認知の障害」だという事がわかってきました。
鬱病は脳の障害として、精神面・身体面の両方に影響を及ぼしますので、
精神疾患と同時に消化器系の内科的な病気で、拒食や過食につながる事もあると考えられています。
パーソナリティ障害
パーソナリティ障害は、他人とは違う反応や行動をしてしまう事で、本人が苦しんだり、周りが困るという症状の精神疾患です。
認知能力や感情、衝動のコントロール、対人関係といった広い範囲でパーソナリティ機能の障害が生じます。
これらによるストレスで、摂食障害に繋がると考えられています。
摂食障害と発達障害との関係は?
発達障害では、
・注意欠陥多動性障害(ADHD)
・自閉症スペクトラム障害(ASD)
の合併障害が摂食障害に繋がっています。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害(ADHD)には、
・必要なことに注意を向けたり、向け続けるのが苦手。
・必要がない動作や行動が多く、じっとしているのが苦手で、突然行動しはじめることが多い。
などの特徴があります。
ADHDでは、
・過食症
・不安障害
・パーソナリティ障害
などがある事が知られていますので、精神疾患で挙げられる摂食障害に繋がる症状と合致しています。
このADHDは、過食症との関連が多く、拒食症の報告は少ないと報告されています。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
自閉症スペクトラム障害(ASD)には、
・周囲の人と関係を築いたり、築いた関係を維持していくことが難しい。
・相手を理解したり、相手の気持ちに気づくのが難しく、自分の事を相手に伝えたり表現するのが難しい。
・自分が予想していた事以外の出来事を受け止める事が難しく、自分の興味や気分に強く拘り、想定外の行動を取る事が難しい。
という特徴があります。
ASDでは、
・拒食症
・強迫性障害
・不安障害
・うつ病性障害
などが合併しやすいと言われており、全て精神疾患で挙げられる、摂食障害に繋がる症状と同じです。
ASDの主な障害である広汎性発達障害では、
・自己表現力の低さ
・認知力の低下
・社会性の低さ
・食事や体重への強いこだわり
など、摂食障害と共通する要素もあると指摘されています。
これら、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害は、
幼小期の頃から、叱責や注意を受けることが多く、自己評価が低い事も摂食障害に結び付く要因である事が報告されています。
摂食障害だと思ったら、何科を受診すればいい?
ここまで説明させていただきましたように、摂食障害は精神疾患や発達障害と深い関係がありますので、
診療内科(メンタルクリニック)や精神科を受診して、
・個人精神療法(カウンセリング)
・対人関係療法
・行動療法(行動制限療法)
・認知行動療法
・家族療法
・再養育療法
・集団療法
などの治療を受ける必要がありますが、
自律神経の問題(内科を受診)、消化器の問題(胃腸科)、脳の問題(脳神経外科や神経内科)も考えられますので、
セカンドオピニオンとして、これらの病院も受診してみる事をおすすめします。
ダイエットで摂食障害になったと思った時 どこを受診すればいい? まとめ
1 摂食障害とは?
ストレスなどの心理的な問題で起こる、食べる行為の障害の事。
抑うつや不安症状などが現れると精神疾患への移行も考えられ、自傷行為や自殺に至る事がある。
2 摂食障害の症状は?
摂食障害の症状は個人によって様々だが、一般的に
・拒食症 (神経性過食症)
・過食症 (神経性過食症)
・特定不能の摂食障害
の3つの症状がある。
3 摂食障害の原因は?
拒食症、過食症、特定不能なものも合わせ、嚥下障害など身体の機能としての障害とは別に分類される精神的な障害が考えられる。
具体的な原因としては、
・環境
・ストレス
・遺伝
・性格
・ダイエット
などが挙げられる。
4 摂食障害と精神疾患の関係は?
精神疾患としては、
・不安障害
・強迫性障害
・鬱病
などと強い関連がある。
5 摂食障害と発達障害との関係は?
発達障害では、
・注意欠陥多動性障害(ADHD)
・自閉症スペクトラム障害(ASD)
の合併障害が摂食障害に繋がっている。
6 摂食障害だと思ったら、何科を受診すればいい?
診療内科(メンタルクリニック)や精神科を受診して治療を受ける必要があるが、セカンドオピニオンとして内科、胃腸科、脳神経外科や神経内科の受診をすすめる。
ダイエットから摂食障害に至るケースはもちろんですが、
鬱病などの精神疾患や、発達障害を持つ方も摂食障害に陥る事が非常に多いです。
摂食障害は自然に治ると思っている方も多く、受診しない事で重症化するケースが多いようです。
ただの”食欲不振”や”ストレス太り”だと思っていたら、それが摂食障害の入り口かもしれません。
少しでも「体調がおかしいかな?」と思ったら、病院受診される事をオススメします。