我々が関わっている患者さんも、
長い間、腰痛が治らなくて困っている方がたくさんいらっしゃいます。
病院に行っても
「特に異常はありませんね」
と言われて、シップと痛み止めだけしか出ない・・・
病院で「異常なし」と言われる腰痛とは?
治療法はある?
今回は、そんな腰痛を説明していきます。
病院で「異常なし」と言われる腰痛は?
病院にかかっても、
「異常は無いですね」
と言われる腰痛は
”非特異的腰痛”
と呼ばれるもので、
慢性的に腰痛がある方の約8割が、この非特異的腰痛だと言われています。
非特異的腰痛とは?
原因がハッキリしない腰痛は”非特異的腰痛”と呼ばれます。
病院で診察してもらっても診断名がつかないか、
ドクターが無理やり診断名を付ける事も多いです。
非特異的腰痛の原因を、大まかにわけると
- 悪い姿勢や悪い動きによる運動器(骨・筋肉・関節・神経)への負担
- 運動不足や加齢による筋力低下
- 過度な運動や疲労・肥満による筋肉や骨への負担
- 精神的・心理的な負担(ストレス)
となります。
では、ひとつずつ説明していきましょう。
1、姿勢の悪さや悪い動きによる腰への負担
事務がお仕事の方など、長時間同じ姿勢でいる方や
中腰や前かがみで動く事の多い仕事や
主婦の方などに多いです。
また、寝起きや動き始めに腰が痛くなる場合も
この原因が考えられます。
この場合、悪い姿勢を長時間とる事で、
血行が悪くなり、筋肉が固くなって、
腰に負担をかけています。
また、悪い動きを続ける事でも、
偏った筋肉ばかりに負担をかけ、
筋疲労や血行不良によって痛みが出ます。
2、運動不足
運動不足になると筋力が落ちてきます。
筋力が落ちると体を支えきれなくなり、
腰に負担がかかってきます。
運動不足が原因で腰痛が出て病院へ来られる方で、
腹筋や背筋や腰周りの筋肉が弱くなり、
骨盤が後ろに傾いて、
背骨(腰椎)が後ろへ曲がってしまい(腰椎後弯)
神経を圧迫して痛みが出る場合が非常に多いです。
また、筋肉への血の循環も悪くなり、
筋肉が固くなる原因を作ります。
3、加齢
40代以降になると自然に筋力が落ちてきます。
運動不足でも説明しましたように、
筋力が落ちると体の重さを支えきれなくなり、
腰に負担がかかります。
これに加え、背骨のクッションになっている
椎間板という組織が老化して固くなり、
クッションの役割が弱くなり、
背骨に負担がかかる事も腰痛の原因となっています。
そして、女性に多いのは
骨粗しょう症で骨の強度が弱り、
転倒などをきっかけに骨折をして腰痛が残るというものです。
私が診た骨粗しょう症の患者様の中には、
勢いよくベッドに座っただけで
背骨が潰れ(圧迫骨折)
寝たきりになった方もいらっしゃいました。
4、過度な運動
運動のし過ぎも良くありません。
過度な運動は運動器(筋肉や骨、関節)に負担がかかり、
運動器を痛める可能性が高くなります。
5、過度な疲労
仕事や家事での過度な疲労は
運動器(骨・筋肉・関節・神経など)に負担をかけます。
さらに、疲労を感じている時は、
筋肉の疲労だけではなく、
精神的にストレスを感じますので、
自律神経の乱れやホルモン分泌を妨げる事も
腰痛が出る要素を生んでいます。
6、肥満
体重が重くなる事で、
腰に負担がかかって腰痛に繋がっているのは
想像がつくと思いますが、
肥満でお腹が出る(よくビール腹などと言われる状態)と、
骨盤が前に傾き、
背骨(腰椎)が前に曲がって(腰椎前弯)
神経を圧迫して痛みが出る事も非常に多いですね。
7、ストレス
人間関係や仕事、子育てなどのストレスで
自律神経のバランスが崩れたり、
脳内で痛みを和らげる物質の分泌が悪くなり
腰痛が出る場合があります。
更に、腰痛の経験があり
「いつ痛くなるかわからない・・・」
という腰痛への恐怖心で体を動かさなくなったり、
動かし方がおかしくなったりして
腰痛につながっていく事もあります。
ストレスなど心理手見な事が原因で起こる腰痛には、
背中などの筋肉痛、めまい、肩こり、動悸、耳鳴り、
手足の冷え、胃腸の不調、睡眠障害、鬱などが
同時に起こる事もあります。
非特異的腰痛の治療は無い?
非特異的腰痛は、原因がハッキリしない腰痛ですので、
原因から導き出す治療法はありません。
非特異的腰痛の治療は、
悪い生活習慣を生活の中で改善していく事が治療となります。
では、その対応策をお話ししたいと思います。
1、姿勢の悪さや悪い動きに対する対応策
まず、悪い姿勢で起きている腰痛の場合は、
姿勢を直す事が大事です。
①座っている時に猫背にならないように気を付ける
テレビやパソコンのディスプレイの位置を高めにして、
首が前に出過ぎず、
肩と肩の間に安定して座っている感覚を練習して下さい。
最近では、骨盤を固定して
座っている姿勢を正しく矯正する座布団も
市販されていますので、
こういった姿勢矯正器具を使うのも良いです。
②長い時間座らず、1時間に1回は立って体を動かす
座っている状態は楽に感じますが、
腰には大きな負担がかかっています。
背中や腰をほぐすために、
1時間に1回は立って歩くとか
簡単なストレッチをすると良いです。
③敷布団は柔らか過ぎないものにする
寝具が柔らか過ぎると、
骨盤が後ろに傾き、
背骨が後ろに曲がったまま寝ている事になります。
敷布団はやや硬めのものの方が腰痛には良いです。
浅田真央ちゃんが使っていた事で有名になりましたが、
高反発のマットレスも市販されています。
体が硬くて痛みが出ているような時は、
基本的に痛い部分を温めて下さい。
電子レンジで温めて使うホットパックが、
ドラッグストアなどに売っていますので、
こういう物を使うとお手軽に痛みを緩和する事ができます。
④腰に負担のかからない動きを学習する
基本的に腰に力の入る動きは、
テコの原理から考えて、
腰に大きな負担をかけます。
重いものを持つような動作では、
脚の力を使ったり、
荷物は出来るだけ体に近づけて持ち上げるような
動作を身に付けて下さい。
更に、全身の柔軟性と筋力をアップするよう、
日常から運動を心がけて下さい。
出来れば、1日に1回でも良いので、
ストレッチを取り入れると良いですね。
筋肉痛など急に痛みが出たは、
基本的に痛い部分をシップなどで冷やして下さい。
2、運動不足に対する対応策
日常的に運動する運動習慣を身に付けて下さい。
腰痛体操など、筋力トレーニングとして
腰を中心に鍛えるのがベストではありますが、
ジョギングやウォーキングなどでも構いませんので、
体を動かす事を心がけて下さい。
と言っても、運動を続けるのは大変ですよね?
何かを継続するには相当根気のある方以外は
“目標”では継続できません。
“目標”ではなく“目的”を持つ事が大事です。
運動への目的は何でも結構です。
私がリハビリで散歩を続けられるように患者様に
目的を持ってもらって続けられた例として
①ビールで晩酌する方
毎日、酒屋まで歩いてその日に飲むビールを買う。
②タバコを吸う方
毎日、タバコ屋まで行って1箱だけタバコを買う。
③犬好きな方
犬を飼って、毎日散歩に連れていく。
④おしゃれが好きな方
ジャージや普段着ではなく、
毎回おしゃれして散歩に出てもらう。
⑤写真が趣味の方
近所の公園や山の景色を日々の変化を
写真で記録してもらい、
年に1回デイサービスで作品展を開いてもらう。
などを提案して、運動を続けて下さいました。
この運動不足に対しては、
数年前からロコモティブシンドローム(運動器症候群)
の問題提起が広がり始めました。
現在では介護予防として
取り上げている行政も多くみられますので、
行政に問い合わせて講習会などに
参加するのも良いかと思います。
3、加齢に対する対応策
歳を取るのは防ぎようがありませんが、
若さを保つのは可能です。
最近のアメリカの研究で、若さを保つためには
- 運動
- 瞑想
- 社会交流
の3つが必要だとの研究結果が出ています。
筋力低下・骨粗しょう症の予防や、
関節の柔軟性を維持するためには運動は外せませんし、
認知症の予防としても、
運動と社会交流は
以前から注目されていた事ですし、
実際、私の経験からも
ご近所や友人との交流が多くて、
家でじっとしていない高齢者の方は
いつまでもお元気ですね。
4、過度な運動に対する対応策
一般的に適度な運動とは
中強度(軽く息が弾む程度)で20分
歩数なら8000歩
と、言われています。
趣味や健康増進で運動をされる方は
これぐらいでちょうど良いのですが、
肉体労働など体を酷使する仕事の方は
こんな甘ちょろい事は言っていられませんよね。
仕事の場合、
運動量や運動負荷はなかなかコントロールできませんが、
体を上手に使う事で腰への負担は減らせます。
“姿勢の悪さや悪い動きに対する治療”でも説明しましたが、
テコの原理から、腰に大きな負担をかけないように
重いものを持つような動作では、
腰ではなく脚の力を使って持ち上げたり、
重い物は出来るだけ体に近づけて動かすような動作を
心がけると局所的な負担を減らせます。
更に、過度な運動をした後は、
使った部分を冷やしてクーリングしたり、
ストレッチをして筋肉をやわらげておくと
次の日の痛みが軽くなります。
5、過度な疲労に対する対応策
脳の疲労もストレスに結び付きますが、
この場合は主に体の疲労の事です。
体の疲労を解消するためには、
主に、休養・栄養・睡眠が重要です。
休養としては、
全く体を動かさない休養よりも、
少しだけ体を動かした方が回復が早まりますので、
休日でも寝たきり休日で終わらないように
ストレス解消も兼ねて外出する事も大事です。
栄養補給はバランスが大事ですが、
ビタミンB群(主にB1・B2)と
ビタミンB群の吸収を促進させるアリシンが
疲労回復には効果があります。
ビタミンB₁を含む食品には豚肉、ウナギ、卵など、
アリシンを含む食品にはタマネギ、にんにく、にら
などがあります。
睡眠は、時間よりも質が大事です。
質の良い睡眠を取る事で成長ホルモンの分泌が促されて
疲労回復に効果があります。
6、肥満に対する対応策
これは、ダイエット以外にありません。
肥満が原因ではなく、
他の原因で腰痛がある腰痛の患者様でも、
肥満があれば治療の一環としてまずはダイエットをおすすめします。
肥満は腰痛の原因になるどころか、
生活習慣病のリスクも高くなりますし、
高血圧や高脂血症を起因とした
脳血管障害や心臓血管障害で
命に関わる病気になる確率が高くなります。
腰痛を治したければ・・・というより、
寝たきりや早死にを防ぐためにダイエットを頑張って下さい。
7、ストレスに対する対応策
ストレスが腰痛の原因として大きな位置を占めるという事は
最近の研究で立証されてきました。
現代社会で、ストレスが無い生活を確保するのは不可能に近いですし、
ストレスを解消するのは、
環境を変えたり、メンタルコントロールが必要だったりと大変ですが、
腰痛のみならず鬱や精神疾患になる原因でもあるので、
ストレスを緩和できるのであれば
勇気を持って1歩踏み出し、環境を変える事も必要だと思います。
数年前にNHKでも放送されましたが、
東京大学の東大病院では、
この心理的な原因の腰痛にスポットを当てた
治療法を研究しています。
この東大病院の研究はストレスというより、
腰痛への恐怖心を緩和する方法ですが、
これだけ体操という3秒で出来る体操で
腰痛を治療します。
私もこの“これだけ体操”を考案した、
松平先生の講習を受けにいき、
最初に“これだけ体操”を見た時は
「いやいや・・・こんな簡単な体操で腰痛が治るのか?」
なんて疑っていましたが、
腰痛が残る脳の働きの説明や
治癒率の高さには
さすが!
と、納得がいくものでした。
書籍も出ていますし、
YOUTUBEでも動画が出ていますので、
「いろいろな治療をやってみたけどなかなか治らない・・・」
という方は一度試してみても
良いんじゃないかと思います。
腰痛で病院に行っても異常なしと言われる?原因がわからない非特異的腰痛とは? まとめ
1 病院で「異常なし」と言われる腰痛は?
病院にかかっても、「異常は無いですね」と言われる腰痛は”非特異的腰痛”と呼ばれるもの。
2 非特異的腰痛とは?
原因がハッキリしない腰痛は”非特異的腰痛”と呼ばれる。
主な原因は①~⑤
①姿勢の悪さや悪い動きによる腰への負担
悪い姿勢を長時間とる事で、血行が悪くなり、筋肉が固くなって腰に負担をかけている。
②運動不足
筋力が落ちると体を支えきれなくなり腰に負担がかかってくる。
③加齢
筋力低下と椎間板の老化で腰に負担がかかる。
④過度な運動
運動器(筋肉や骨、関節)に負担がかかり、運動器を痛める可能性が高くなる。
⑤過度な疲労
運動器(骨・筋肉・関節・神経など)に負担をかける。
自律神経の乱れやホルモン分泌を妨げる事が原因。
⑥肥満
体重が重くなる事で、腰に負担がかかる。
お腹が出て、背骨(腰椎)が前に曲がって(腰椎前弯)神経を圧迫して痛みが出る。
⑦ストレス
自律神経のバランスが崩れる。
脳内で痛みを和らげる物質の分泌が悪くなる。
3 非特異的腰痛の治療は無い?
原因がハッキリしない腰痛なので、原因から導き出す治療法は無いが、生活習慣を改善する事が治療となる。
①姿勢の悪さや悪い動きに対する対応策
意識して姿勢を直す。
②運動不足に対する対応策
日常的に運動する運動習慣を身に付ける。
③加齢に対する対応策
歳を取るのは防ぎようがありませんが、・運動・瞑想・社会交流で若さを保てる。
④過度な運動に対する対応策
使った部分を冷やしてクーリングしたり、ストレッチをして筋肉をやわらげておく。
⑤過度な疲労に対する対応策
主に、休養・栄養・睡眠が重要。
⑥肥満に対する対応策
治療の一環としてまずはダイエットを薦める。
⑦ストレスに対する対応策
勇気を持って1歩踏み出し、環境を変える事も必要
腰痛とひとくちに言ってもいろいろな原因があり、
原因によっては非常に怖いものだという事が
分かっていただけたかと思います。
「たかが腰痛」
と舐めずに
まずは、病院を受診してみて下さい。
では、1日でも早く辛い腰痛から解放されるよう
努力できるところは努力して、頑張って下さい。