交通事故総合分析センターの発表では、高齢者のドライバーは過去10年間で約2倍に増加しています。
そんな中、連日のように高齢者の交通事故がニュースで報じられており、アクセルやブレーキの踏み間違いが原因の事故も多発しています。
私が理学療法士として関わっている在宅の高齢者の方々も、アクセルやブレーキの踏み間違いで事故を起こした方は何人かいらっしゃいます。
高齢者のアクセル踏み間違い事故はなぜ起こるのでしょう?
アクセル踏み間違いを防ぐにはどうすれば良いのでしょうか?
目次
アクセル・ブレーキの踏み間違いが原因の事故は高齢者が最も多い?
交通事故総合分析センターの発表では、アクセルやブレーキの踏み間違いが原因の事故は、75歳以上の高齢者で最も多く発生しています。
では、なぜ高齢者はアクセルやブレーキを踏み間違うのでしょうか?
そこには、老化による体や脳の衰えが関係しています。
アクセルやブレーキの踏み間違い事故を招く高齢者の体と脳の衰えとは?
高齢になると、老化により体や脳の衰えが起きてきます。
自動車の運転に関わる体や脳の機能のうち、老化によって衰えるものには、主に以下のものがあり、
- 身体機能の衰え:関節の動き・筋力・柔軟性・俊敏性などの衰え
- 感覚の衰え:触れる・圧力・体の位置などの感覚の衰え
- 認知力の衰え:記憶力・注意力・判断力などの衰え
これらがそれぞれ、高齢者のアクセル踏み間違い事故に大きく関わっています。
1.身体機能の衰え
高齢になると、筋肉・靭帯・腱など関節の周りの組織が固くなる事で体の柔軟性が損なわれ、関節の動きが悪くなります。
ブレーキとアクセルを踏み変える時に、この関節の動きの悪さで、足を上手く動かせなくなり、踏み間違いにつながります。
足首の関節が固くなると、微妙なアクセルの操作もできなくなり、急発進などの原因にもなります。
また、筋肉が痩せて筋力が落ち、身体中の力が弱くなります。
脚の力も弱くなる事で、ブレーキを踏む力が弱くなり、ブレーキを踏んでも止まりきれずに、ぶつかってしまう事になります。
これらの、関節の動きの悪さと、筋力が弱くなる事が合わさる事で、俊敏性が損なわれてしまい、瞬間的な踏み変えが遅くなって、とっさの場合にブレーキが間に合わず事故に繋がります。
2.感覚の衰え
高齢になると、触れる感覚が鈍くなります。
手や指だけでなく、足の裏の触れる感覚も鈍くなるので、アクセルとブレーキを踏み変えた時に、ペダルに足の裏がしっかり当たっているかどうかが分かりにくくなり、踏み間違いにつながります。
さらに、足の裏への圧力も感じにくくなりますので、アクセルを踏む力加減が分かりにくくなり、急発進などの原因になります。
また、体の位置を感じる感覚も鈍くなりますので、足の位置が分かりにくくなり、自分ではブレーキの位置に足があるつもりでも、アクセルの位置に足があったりして、踏み間違いを起こします。
3.認知力の衰え
高齢になると、注意力が低下し周りの状況が判断しにくくなります。
危険な場所に停めていたりしても危険性を感じなかったり、前進しようとする時に、うっかりシフトレバーをバックに入れてしまったりする事につながります。
また、判断力も鈍くなりますので、状況に合わせたアクセルとブレーキの操作が難しくなり、とっさの場合に、判断が遅れたりパニックになったりして思わぬ事故に繋がります。
これらの衰えは、高齢者ご本人も気付かないうちに少しずつ衰えてくるものです。
MS&AD基礎研究所のアンケートでは、80歳以上の高齢者の72%が「運転には自信がある」と答えています。
これは、長年運転をしてきた経験として運転技術に自信を持っているという事でしょうが、
熟練した運転技術でさえも役に立たないほど、体や心の機能が衰えている事に、高齢者ご本人が気付いていないだけなのです。
私が日頃お付き合いしている高齢者の方々も、病気で日常生活ですら手助けが必要なのに、「運転はできる!」とおっしゃる方は意外に多いです。
アクセルやブレーキの踏み間違い事故を防ぐには?
高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違い事故を防ぐためには、体や脳が衰えている事を自覚し、注意しながら運転する事が重要ですが、運転をしているほとんどの高齢者の方々には、
『自分は大丈夫!』
『運転には自信がある!』
という意識があり、
「まあ、気を付けなきゃいかんなー」
という程度の注意で留まってしまいます。
そこでお勧めしたいのが、後付け装着可能な「ペダル踏み間違い防止装置」をマイカーに取り付ける事です。
政府は自動ブレーキなどの安全機能がついた車のみ運転することができる高齢ドライバー専用の限定免許制度を検討すると発表しました。
さらに、東京都は、アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する装置などを新たに付ける費用を9割補助する方針を明らかにしています。
トヨタとダイハツのディーラーで販売されている後付けの踏み間違い防止装置
トヨタでは、いま乗っているクルマに装着できる、後付けの踏み間違い加速抑制システムを販売しています。
この踏み間違い防止装置は、車両前後に取り付けた4つの超音波センサーにより、前方と後方の約3m以内にある壁などの障害物を検知して、車内にブザー音で注意を喚起します。
それでも気付かずに、ブレーキと間違えてアクセルを強く踏み込んでしまった際には、加速を抑制して、衝突の軽減を図ります。
また、後退時は、障害物を検知していない状態でも、約5km/h以上でアクセルを踏んだ場合には、速度が出過ぎないよう加速を抑制します。
対応車種としては、
現在の対応車種は
プリウス
現在の対応車種は、
アクア
プリウスα
プレミオ
アリオン
ポルテ
スペイド
ウィッシュ
の8車種ですが、
10月には
カローラアクシオ
カローラフィールダー
パッソ
12月には
ヴィッツ
にも取り付けられるようになります。
価格は税抜き51,000円で、別途取り付け費用が必要になります。
詳しくはTOYOTAの「踏み間違い加速抑制システム」のホームページをご覧ください。
ダイハツでは、ペダル踏み間違い時加速抑制装置「つくつく防止」という後付けの安全装置を販売しています。
この「つくつく防止」は、車体の前方と後方に計4カ所のソナーをつけることで、目の前の障害物を検知します。
障害物を検知した状態であれば、アクセルを強く踏み込んでしまっても燃料カットされ、急発進を抑制する仕組みになっています。
対応車種としては、
タント
ムーヴ
ミラ
ミラココア
ムーヴコンテ
タントエグゼ
となり、
価格は税込み3万4560円で取り付け費用も込みとなっています。
詳しくはダイハツのホームページをご覧下さい。↓
オートバックスで販売されている『ペダルの見張り番』
この『ペダルの見張り番』は、発進時にブレーキとアクセルを踏み間違えてアクセルを強く踏み込んでも、車が急発進しないようにし、後退時の踏み間違えによる事故を抑制できる後付け装着可能な装置です。
この装置の価格は、43,198円(税込)で、軽自動車からミニバンまで、100 車種以上に幅広く対応しており、さらに41年間の交通事故傷害保険まで付いています。
トヨタとダイハツのディーラー、オートバックスのどちらのペダル踏み間違い防止装置も、35,000円~55,000円前後となっていて、多少の金銭的な負担はありますが、
大きな事故を起こして大変な事になるのを考えれば、装着しておく価値は十分あります。
まとめ
人それぞれで差はありますが、人間である以上、年齢を重ねれば必ず、体も脳も老化して衰えます。
歳をとるごとに、歩いたり走ったりする事が遅くなるような『体の衰え』や、忘れっぽくなったり、思い出せなかったりするような、『脳の衰え』は誰でも感じると思います。
自動車は機械ですから、簡単な操作で誰が運転しても同じスピードで走ってくれるので、衰えを感じにくいものですが、自動車という機械を操作する上でも、体や脳の衰えは確実に大きな影響を及ぼします。
老化で、走るのが遅くなったり忘れっぽくなっても、日常生活で多少困る程度の影響で済みますが、自動車を運転する上での老化の衰えは、人の命を奪うかもしれない恐ろしい事故に繋がります。
いくら無理して走っても若い者には勝てないように、老化による体や脳の衰えは、注意したり気を付けたりするだけでは、防げるようなものではありません。
本来なら、高齢者になったら運転しないようにする事が一番良いのですが、
自動車は、足腰が弱って移動に困る高齢者にとって、長距離を移動できる唯一の道具であり、自動車に乗れなくなると、生活に困るという現実もあります。
老化で衰えた体と心で運転が危ないからと言って、免許を取り上げるのではなく、不自由になった生活を、自動車を運転する事で、少しでも便利にしてあげたいからこそ、私が関わっている高齢者の方々にも、「ペダル踏み間違い防止装置」の取り付けを強く薦めています。