介護職の人手不足の深刻さは、様々なメディアで報じられていますが、
人手不足を解消する対策のひとつとして、外国人の方々の雇用が進められています。
公益社団法人国際厚生事業団のアンケートでは、介護の現場で外国人の方々が働いている感想として、
介護施設の職員、患者・利用者・ご家族の約8割が「良好、もしくはおおむね良好な反応」という高い評価のデータが出ていますが、
実際の現場では、データには出て来ない細かな問題もおきています。
もし、大事なご家族を施設に預ける事になったら、介護職として外国人がいる施設は大丈夫なのか?と心配になるかもしれません。
今回は、データとしての外国人介護士の評価と、現場での外国人介護職の問題をお話し致します。
目次
データとしての外国人介護職の評価
公益社団法人国際厚生事業団の発表では、
介護分野での外国人の介護職員数は、約3,500人で、
国別としては、フィリピン・中国・韓国の順となっており、
EPA(経済連携協定)として、連携国の雇用としても一役買っています。
また、介護職として外国人を受け入れた感想として、
- 日本人職員への影響として、約8割が「良い影響があった、もしくはどちらかと言えば良い影響があった」
- 職場環境への影響として、約7割が「良い影響があった、もしくはどちらかと言えば良い影響があった」
- 職員、患者・利用者・ご家族の約8割が「良好、もしくはおおむね良好な反応」
と、回答があり、
受け入れる側の施設スタッフや利用者・家族などから非常に良い評価を受けている事がデータとして出ています。
施設側の雇用理由としては、「就労意欲が高い」、「日本人職員の雇用が困難」という順位となっており、
ここでも介護職員の人手不足に外国人が貢献している事がデータとして出ています。
このように、データ上では外国人の介護職は高い評価を受けています。
現場での外国人介護職の問題
前述のように、データ上で見ると、介護職としての外国人の雇用は良い事ばかりのように見えますが、
実際の現場では問題やトラブルもあります。
外国人の方々は、遠い国から職を求めて来られるだけの高いバイタリティーを持つ方々だけあって、
実際の現場でも、労働意欲がすごく高いですし、利用者に受け入れてもらおうと必死で努力されています。
さらに、自国の審査に合格して来られた方々は非常に優秀な方々で、
私のようなボンクラは、爪の垢を煎じて飲みたいほどの素晴らしい人材ばかりです。
人としても労働力としても素晴らしい方々ばかりなのですが、
仕事をする相手が高齢者である事や日本とは違う文化で育った事が、
細かい部分で問題点として出てきています。
人種としての偏見
前述で、介護分野での外国人介護職員数は、ダントツでフィリピンから来られた方々が多いのですが、
東南アジアの方という部分が、人種として偏見の対象になり不快感を感じる高齢者の方もいらっしゃいます。
今の若い世代で東南アジアの方々を、偏見の目で見る方は居ないと思いますが、
戦前の感覚を持たれている、一部の高齢者の方は不快な思いをされているのも現実です。
例えば、私が経験したケースでは、
フィリピン人の介護士の方に対して「クロんぼ」と呼ばれ、
「クロんぼが触ったメシは食えない」
「汚らしいから身体に触れてほしくない」
というような不快感をお持ちの方が複数いらっしゃいました。
中には、フィリピン人の介護士の方に直接訴えてしまう方もいらっしゃり、
フィリピン人の介護士の方も深く傷ついていらっしゃいました。
しかし、それは高齢者ご本人の意地悪やイジメなどではなく、
ジェネレーションギャップとしての価値観の問題ですから、一方的に高齢者の方が悪いわけではありませんので、
施設側としては、不快な思いをされている高齢者と、外国人の介護職の方をなるべく接触させないように配慮していました。
文化・習慣の違い
文化・習慣の違いを埋めようと、外国人の方々もすごく努力されており、
利用者さんにプレゼントするために、練習として折り鶴を一晩で300個以上作って来られたフィリピンの方もいらっしゃいましたし、
高齢者が好む歌や遊びを勉強して、日本人スタッフの誰よりも詳しいベトナムの方もいらっしゃいました。
また、日本の礼節を学ぶため、プライベートでマナー講座に通っていらっしゃる外国人の方もいらっしゃいました。
しかし、生まれ育った文化・習慣の微妙な違いが、問題につながったケースも現場では実際にあります。
例えば、
フィリピンと日本では仕事中の時間の使い方として、少し価値観が違うようで、
日本では、仕事中に許可を得ず、私用で職場を離れるのは、注意や指導を受ける行為ですが、
フィリピンでは、大事な私用は仕事よりも優先する文化があるようです。
私がある施設で聞いたケースでは、
フィリピン人の介護職の方が、お昼の休憩後に1時間も行方不明で、
入居者の方の入浴が中止になった事がありました。
外国人の方が戻って来ないので介護主任が探し回っていると、慌てる様子もなく外出から戻って来られ、
「何をしていたの?」
と、訪ねたら、
「フィリピンから友人が訪ねて来たので相手をしていた」
と悪びれず答えられたそうです。
そこで介護主任が、
「利用者さんや他のスタッフに迷惑をかけるから、仕事の時間はちゃんと守りなさい!」
と、厳しく注意したら、
「遠いところから、せっかく友人が訪ねてきてくれたのに、相手をしないのは失礼でしょ?何で怒られないといけないの?!」
「仕事に遅れた分は、仕事のペースを速くしてちゃんと取り戻すのだから何の問題も無いはずでしょ!」
「フィリピンでは皆そうしている!」
と、逆ギレされ、言い争いになったそうです。
この時は、入浴するはずだった入居者の方の温情で許して下さったそうで問題は治まりましたが、
入浴するはずだった入居者の方が、もし許して下さらなければ大きな問題になっていたかもしれません。
また、フィリピンでは相手に対して敬意を表す、相手の手の甲を自分の額につけるMANO(マノ)という挨拶がありますが、
挨拶とは知らない高齢者が突然MANOをされてびっくりし、介護の拒否に繋がったケースもありますし、
フィリピンではゲップはマナー違反ではない行為らしいのですが、
目の前でゲップをするのが不快だと、高齢者の方々の訴えで施設内で大きな問題になったケースもありました。
雇用する施設側のコスト
前述で、外国人の方を施設側が雇用する理由として、「就労意欲が高い」、「日本人職員の雇用が困難」という事が挙げられる事をお話しましたが、
逆に、雇用しにくい理由として人件費の問題が挙がっています。
海外で企業が雇用するのとは違い、日本国内で外国人を雇用すると雇用契約として労働関係の法令が適用されますので、
給与は日本人と同じで、その他に語学教育などのコストがプラスされ、
人件費としては日本人を雇うよりコストが余計にかかる事になります。
また、外国人の方々を介護福祉士候補として受け入れるには、以下の厳しい条件があり、
EPA 介護福祉士候補者受入れ機関・施設の要件
- 受入れ施設において介護福祉士養成施設の実習施設と同等の体制が整備されていること。
- 受入れ施設において介護職員の員数が、法令に基づく職員等の配置の基準(以下「配置基準」という。)を満たすこと。
- 受入れ施設において常勤介護職員の 4 割以上が介護福祉士の資格を有する職員であること。
- 受入れ機関において、過去 3 年間に、経済連携協定の枠組み等による看護師・介護福祉士候補者、EPA 看護師又 EPA 介護福祉士の受入れについて、虚偽の求人申請、二重契約その他の不正の行為をしたことがないことまた、過去 3 年間に、外国人の就労に係る不正行為を行ったことがないこと
- 受入れ機関において、過去 3 年間に、経済連携協定等の枠組みによる看護師・介護福祉士候補者、EPA 看護師又は EPA介護福祉士の受入れについて、受入れ機関に義務付けられた(5)の報告を拒否し、又は不当に遅延したことがないこと。
- 受入れ機関において、過去 3 年間に、経済連携協定等の枠組みによる看護師・介護福祉士候補者、EPA 看護師又は EPA介護福祉士の受入れについて、巡回訪問の際に求められた必要な協力を拒んだことがないこと。
EPAの介護福祉士候補者は、受け入れ施設で就労しながら国家試験の合格を目指し研修に従事するのが条件ですので、
受け入れ施設では、国家試験対策や日本語学習など、適切な研修を実施しなければいけませんので、
雇用するには大変な手間もかかります。
これらを考えると、外国人を介護職として雇っている施設は、コストと手間をかけてでも人材を増やし、
介護サービスが低下しないように注力している「儲け主義」では無い良い施設だとも言えます。
最後に
介護の現場で外国人の介護職の方々とお会いすると、仕事に対する熱心さや強い責任感、相手に対する気遣い・優しさに尊敬すら感じます。
手を抜く事ばかり考えている若いスタッフに「少しは見習え!」と、手本として示した事さえあります。
ただ、高齢者の年代としての文化や価値観は、日本人の若手スタッフでも理解できずクレームに繋がる事も多くあり、
そこに、海外と日本の文化の違いが加わると、大きな問題に発展するリスクはどうしても拭えません。
ご家族を入居させようと思っている施設に、外国人の介護職がいらっしゃったら、
入居されるご本人の価値観や考え方を十分に考慮し、施設側とよく話し合われる事をおすすめします♪