行楽シーズンになり、移動手段として自動車を運転する機会も増えます。
私が関わってきた高齢者の方々も、移動手段として自動車の運転をしていらっしゃる方は多かったです。
特に、都市部を外れ公共交通機関が使いにくい地域では、運転する高齢者が多くみられます。
免許証の自主返納制度などもでき、「高齢者の運転をやめさせたい」という声が高まっていますが、公共交通機関が充実していない地域では、高齢者こそ車の運転が死活問題となります。
高齢者の特徴として、何が運転に影響を及ぼしているのでしょうか?
高齢者は、なぜ運転をやめられないのでしょうか?
高齢者の運転に対する、現場での取り組みをご紹介します。
目次
高齢者の事故
警察庁が発表した、昨年11月までの交通事故統計では、65歳以上の運転者が原因の死亡事故は、807件で死亡事故全体の27.7%を占めています。
この中でも、高齢者の事故として、アクセルとブレーキの踏み間違えなどで店舗につっこむような物損事故は、頻繁にニュースで騒がれています。
死亡者や重傷者が出た人身事故として、今年だけでも下記のような重大事故が起きています。
・北海道で、70歳代の男性が車をバックさせ、78歳の女性をひき意識不明の重体。
・茨木県で、ファミリーレストランの駐車場で歩行者をはね重症。
・東京都で、70代の男性が店舗につっこみ、30代男性が建物との間にはさまれ死亡。
・栃木県で、75歳の男性が国道を逆走し、軽自動車と衝突して死亡。
・群馬県で、85歳の男性が渋滞中に逆走し、高校1年生の女子をはね死亡。
・広島県で、76歳の女性が上り坂に車を停め、停めていた車が動き出し、自身がはさまれ重体。
これらの事故は、明らかに高齢者としての特徴で起こっている事故ばかりです。
高齢者としての特徴が運転に及ぼす影響
高齢になると、加齢による運動機能の低下と精神機能の低下がみられますが、
下記の機能低下が自動車の運転に影響を及ぼします。
・聴力の低下
・関節位置覚の低下
・筋肉への神経伝達の低下
・認知機能の低下
視力の低下
高齢になると、加齢により視力が低下します。
正常であれば危険を察知できる距離でも、視力の低下により危険に気付くのが遅くなります。
さらに、高齢になると視野も狭くなるため、周囲の危険を察知しにくくなります。
聴力の低下
高齢になると、聴力も低下します。
聴力が低下すると、クラクションなどの警告音も聞こえず、危険を察知しにくくなります。
また、聴覚神経の老化による老人性難聴では、高い音が聞こえにくくなるため、
自動車の機械的な故障の兆候に気付けない事も、事故に繋がる原因になります。
関節位置覚の低下
関節位置覚とは、目で確認しなくても、身体の一部がどの位置にあるのか?を感知できる能力です。
例えば、目をつぶっていても鼻や耳などに触れられるのが、関節位置覚の働きによるものです。
高齢になると、この関節位置覚も低下するため、目で確認できない身体の位置がわかりにくくなります。
高齢者の事故でよくみられる、ブレーキとアクセルの踏み間違いは、関節位置覚の低下によるものが主な原因です。
筋肉への神経伝達の低下
高齢になると、筋肉への神経伝達も低下するため、視覚で危険を察知してからブレーキを踏むまでが遅くなります。
また、筋肉への神経伝達の低下は、どれだけ力を入れているかも分かりにくくなるため、
全力を入れてブレーキを踏んだつもりでも、踏む力が弱くなってしまい、
止まりたいポイントで止まれないなどのミスから事故に繋がるリスクを高くします。
認知機能の低下
認知機能とは、視覚・聴覚などから受けた情報を、脳で理解・推測・判断・決定する能力の事です。
高齢者は、危険な状況を目で確認できたとしても、
その危険な状況を脳で理解して、
それで何が起こるのかを推測し、
どうすれば危険を回避できるのかを判断して、
ハンドルやブレーキの操作を決定するまでの時間が遅くなります。
また、対向車を確認しながら歩行者に注意を払うような、同時に複数の情報を処理するのが難しくなっていまい、
事故に至るリスクが高くなります。
これらの機能低下が事故に結び付くのは、高齢者自身にも理解はできるのですが、
高齢者が運転を、やめられないのには理由があるのです。
高齢者は、なぜ運転をやめられない
高齢者が運転をやめられない理由として、以下のものが挙げられます。
・機能低下を深刻な事だと感じにくい
・長年運転してきた自信
・衰えている自分を認めたくない
移動手段が限られる
高齢になると、歩く能力が低下するため、電車やバスなどの公共交通機関を利用して移動するのが辛く、不便になります。
電車なら駅まで・駅構内・駅から目的地まで、バスならバス停まで・バス停から目的地まで歩かなければならず、
歩行能力が低下している高齢者には辛い移動になります。
自治体からタクシー券などの給付はありますが、使える回数は限られており、実費で支払う金額はかなりの負担になります。
これらが、自宅から目的地まで歩かずに移動できる自動車を手放せない原因となります。
機能低下を深刻な事だと感じにくい
高齢になると、身体・精神機能が低下しますが、ご本人も日々の生活の中で気付いています。
しかし、機能低下は加齢と共に少しずつ進むため、不便を感じるたびに何かしらの工夫をして対処しています。
このため、知らず知らずのうちに機能低下が進み、ご本人が認識している以上に機能低下が深刻になっています。
ご自分の機能低下が深刻になっている事を自覚していないまま運転をする事で、事故に繋がるリスクが高くなります。
長年運転してきた自信
高齢者の方々に運転の事をお聞きすると、
「運転には自信がある!」
「若い者には負けてない!」
と、ほとんどの方がおっしゃいます。
数十年も運転してきた事で、身体や精神機能の低下も運転技術でカバーできると思ってしまっている事が、事故のリスクを高めます。
衰えている自分を認めたくない
高齢者のプライドとして、
「自分は衰えていない!」
「年寄り扱いされたくない」
という気持ちをお持ちの方が少なからずいらっしゃいます。
そのプライドが無理をさせ、危険な運転に繋がる事があります。
家族など周りの人達は、運転をやめさせたいと望んでいますが、
これらの理由で、なかなか聞き入れてもらえないケースが多々あります。
そこで、我々が工夫をして、運転をやめさせられないまでも、運転への注意喚起を促しています。
高齢者の運転に対する現場での取り組み
前述に挙げたように、高齢者の方々に運転をやめさせようとしても、ご家族の説得はなかなか聞き入れてもらえず、
ご家族から相談を受けて、我々が関わる事になりますが、
ご本人を説得するために、前述の高齢者が運転をやめられない理由を考慮しながら
下記の取り組みをしています。
・自動車のキーの管理
・高齢運転者マークの表示
・高齢者による事故の情報提供
・移動手段の確保
自動車教習所での判定
運転に自信のある高齢者に、運転のプロではない我々が説得しても説得力がありません。
そこで、自動車教習所で運転の技術や身体や精神の反応などの「高齢者運転診断」をしてもらい、
危険な状況であれば自動車教習所の教官から、免許証の返納や注意を促してもらいます。
運転に自信のある方は「運転技術が高い事を証明すれば、うるさく言われなくて済む」と進んで受けて下さいますし、
運転に自信の無い方は、ご家族の言葉に耳を貸すようになられます。
高齢者運転診断として、指導員が助手席に同乗して運転技術をチェックする「実車運転診断」のほか、
検査機器による「運転適正診断」や、全国共通の要領に沿った「認知機能検査」を実施している自動車教習所も増えていますので、
お近くの自動車教習所でご相談されると良いです。
これらは、各都道府県公安委員会や各都道府県公安委員会から業務委託されている、指定自動車教習所等で高齢者講習及び認知機能検査を受けることができますので、
ご家族やお知り合いに高齢者ドライバーがいらっしゃる方は、ぜひ高齢者講習を受ける事を薦めて差し上げて下さい。
自動車のキーの管理
高齢者に運転させないために、ご家族が運転免許証の管理をする事を勧めている情報もみられますが、
運転免許証を管理すると、無免許で運転するきっかけを作る恐れがありますので、
あまりおすすめできる方法ではありません。
管理するのであれば、自動車のキーを管理して、運転をご家族がコントロールできるようにする方が効果的です。
中には、スペアキーを自分で作って隠している高齢者の方もいらっしゃいますが、
家族にばれないようにコソコソ運転しているので、事故をして家族にバレてしまう事を恐れ、安全運転に対する意識は高まります。
高齢運転者マークの表示
運転に自信を持っている方や、自分が衰えている事を認めたくない方には高齢運転者マークを貼っていただきます。
高齢運転者マークが表示されている事で、自信から来る無謀運転を防げますし、根拠の無いプライドを抑える事ができます。
もちろん普通に「貼って下さい」とお伝えしても断られますので、
「高齢運転者マークを貼らずに事故をしたら過失割合が大きくなるような話を耳にした事がある」
「高齢運転者マークを貼っていない事で白バイに捕まったと噂で聞いた事がある」
など、噂レベルで注意喚起しつつ、実際に高齢運転者マークを手渡します。
高齢運転者マークを手渡すと、わざわざ他人が持ってきてくれたものを使わないと申し訳ないという気持ちも手伝って、
次にお伺いした時には、車に貼って下さっている方がけっこう多いです。
高齢者による事故の情報提供
常々、テレビやネットで高齢者による事故の情報を把握しておき、
高齢者の事故があるたびにご本人やご家族へ情報を提供し、
運転への恐怖心と共に注意を促します。
これは意外に効果が高く、自動車で病院に通っていた方が、タクシーやバスを利用されるようになったケースが多くありました。
移動手段の確保
駅やバス停まで遠くて歩くのが辛いため、移動手段に困って自家用車を使う高齢者は本当に多いのですが、
自治体から給付されるタクシー券を使っても回数が限られており、タクシー券が無くなれば実費になる事で、年金生活ではかなり厳しいコストになります。
そこで、ご家族に金銭面か送迎のご協力をいただく事を交渉する事になるのですが、
ご家族にも仕事などのご都合もあり、難しい面もありますので、
私達が立ち会いのもと、ご本人とご家族との話し合いを開催して、
お互いの主張と妥協点をはっきり決める事で、事故やトラブルを最小限に抑えます。
高齢者に運転をやめさせるのは難しい…高齢者の運転の特徴と、現場での取り組みをご紹介します! まとめ
1 高齢者の事故
警察庁が発表した、昨年11月までの交通事故統計では、65歳以上の運転者が原因の死亡事故は、807件で死亡事故全体の27.7%を占めています。
死亡者や重傷者が出た人身事故として、今年だけでも本文のような重大事故が起きています。
※実例は本文をご参照下さい。
2 高齢者としての特徴が運転に及ぼす影響
高齢になると、加齢による運動機能の低下と精神機能の低下がみられますが、
・視力の低下
・聴力の低下
・関節位置覚の低下
・筋肉への神経伝達の低下
・認知機能の低下
これらの機能低下が自動車の運転に影響を及ぼします。
※詳細は本文をご参照下さい。
3 高齢者は、なぜ運転をやめられない
高齢者が運転をやめられない理由として、以下のものが挙げられます。
・移動手段が限られる
・機能低下を深刻な事と感じにくい
・長年運転してきた自信
・衰えている自分を認めたくない
※詳細は本文をご参照下さい。
4 高齢者の運転に対する現場での取り組み
ご本人を説得するために、前述の高齢者が運転をやめられない理由を考慮しながら下記の取り組みをしています。
・自動車教習所での判定
・自動車のキーの管理
・高齢運転者マークの表示
・高齢者による事故の情報提供
・移動手段の確保
※詳細は本文をご参照下さい。
高齢者ご本人のお気持ちを考えると、本当は自動車の運転をさせてあげたいというのが正直な気持ちです。
しかし、大きな事故を起こし、ご本人が被害者になるのはもちろん、加害者として苦しむ事を想像すると、心を鬼にして対応するしかありません。
一日も早く、自動運転の自動車が高齢者でも買える価格で販売される事を願っています♪
コメント
高齢者は、個人個人の差が非常にあります。一律に免許証返納は、反対です。中学時代の友達8人で毎月散歩してますが、2人は免許証返納をしました。
まわりの農家を見ても、殆ど高齢者が毎日軽トラックを運転して農作業をしています。
返却は、日本の農業の衰退を意味します。家族同居の家も少なく、1日バスが4本しかないこの地域で、返納して家にいるようになれば、認知機能が衰えこれまた社会問題です。私(80才)ごとですが、殆ど毎日運転し、写真が趣味で遠方まででかけます。5月は新潟方面へ日帰りで400キロ以上走りました。以前の車はまだ充分乗れる車でしたが、昨年、様々な安全装置のある車に買い換え、注意をしながら運転してます。