障害者の視点でAIやIoTの開発を行おうとする、
村上憲郎氏(前Google米国本社副社長)が会長として名を連ねる「スマート・インクルージョン研究会」が立ち上がるなど、
テクノロジーとしての障害者支援が盛り上っています。
そんな中で、障害者の方々はテクノロジーの進歩に何を求めているのでしょうか?
私がお付き合いしている障害者の方々へ、実際に聞いてみました。
障害者に役立つテクノロジーの現状は?
現在、AI・IoT・ロボット工学・センサー技術などの技術進歩が進み、障害者支援として様々なハードやソフトが続々と開発されています。
ハード面として
富士通は、視覚障害者向けに文字を読み上げてくれるスマートグラス「OTONGLASS」を2019年には製品化する計画である事を発表しています。
引用:MONOist
また、遠隔操作もできる車椅子として、
株式会社テムザックから「RODEM(ロデム)」
引用:レスポンス
WHILL株式会社からは「WHILL Model CR」
引用:WHILL
などが発売されております。
また、金沢大学では、脳波を使って動かす車椅子を開発中です。
引用:金沢工業大学
他にも、障害者の雇用を支援しているパーソルチャレンジ株式会社は、
感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper」と専用アプリ「VRcon for Pepper」を利用して、
障害者の仕事を支援する実証実験を始めています。
ソフト面として
Appleでは、「Swift」でのプログラミングを学ぶ「Everyone Can Code」を視覚や聴覚などに障害があっても学べるようにする取り組みを発表しました。
Microsoftでは、AIの障害者支援活用の為に5年間で2500万ドルを投じる「AI for Accessibility」を立ち上げたり、
引用:スマイルサーチ
カメラに映った文字や人、周囲の状況などをAIが認識し、読み上げてサポートする視覚障害者向けアプリ「Seeing AI」の配信をアメリカで開始しました。
引用:Seamless
googleでは、Googleマップの公共機関を使う経路検索で、車椅子で移動しやすいバリアフリーなルート検索ができるようになりました。
障害者は、テクノロジーの進歩に何を求めている?
テクノロジーの進歩に何を求めているのか?という事を障害者の方々に聞くと、
「お金がザクザク沸いてくる機械が欲しい」
「タイムマシンがあったら良いね」
という夢物語のようなご希望もあれば、
「障害を全て治して健常者になりたい」
というような切実なご希望もありましたが、
やはり「生活面で困っている事を解決して欲しい」というご希望が大多数を占めました。
それでは、その中のいくつかをご紹介します。
行き先を言えば自動で連れて行ってくれる自動運転の車椅子が欲しい
これは、全身(特に脚と手)と聴覚に障害のある40代女性の方のご希望です。
この方は移動に電動車椅子を利用していらっしゃり、電動車椅子を使って一日に2~5kmは移動されるアクティブな方です。
移動する事自体は電動車椅子で特に不便は感じていないそうですが、
手が不自由なため目的地で迷った時にスマホを上手く操作できない事や、聴覚にも障害があるため人にも尋ねにくく困っているとの事でした。
できれば、
「〇〇百貨店の〇〇売り場」とスマホに言えば、その売り場まで連れて行ってくれる精度の高い車椅子があると助かるというご希望でした。
カメラで見ながら商品を選べるドローンがあったらいいな
これは、30代の女性の方です。
この方は、自分では車椅子にも乗れず医療機器が常に必要な病状ですので外出が難しく、
買い物はヘルパーさんに希望を伝えて買ってきてもらうサービスを受けていらっしゃいます。
生活必需品は特に問題無いそうですが、洋服などは自分で選んで買い物をしたいといつも思っているそうです。
カメラの付いたドローンを、気分に応じて好きなショップに飛ばして洋服を選んで、
選んだ洋服を買えるような事が出来たら嬉しいのにな・・・とおっしゃっていました。
スマホでエレベーターを操作したい
これは、50代男性の方のご希望です。
この方は、車椅子を使っている方ですが、エレベーターを使った時に、階数ボタンの前に人がいるとボタンが押せないそうです。
ほとんどの場合は「何階ですか?」と尋ねてもらえるらしいですが、尋ねてもらえない時もあるそうで、
そんな時は何か冷たい感じを受けて「〇階をお願いします」となかなか言い出しにくいそうです。
そんな時は、手元のスマホで階数を押せたらいいのに・・・というご希望でした。
駅の構内放送や車内放送を、スマホに文字で出して欲しい
これは、20代の聴覚障害者の男性の方からのご希望です。
電車の遅れや緊急時など、何かの変更があった際に構内・車内放送だけだと聞こえにくく、何を言っているのかわからない事があるそうです。
構内や車内でも電光掲示板には表示されますが、見えない場所だと結局何だったのか?わからなくなるので、
スマホにも文字で表示してくれるようになると良いな・・・というご希望でした。
青信号をスマホでわかるようにして欲しい
この方は、40代の視覚障害者の方です。
お知らせ音が鳴らない信号の場合、周りの人の動きや車のエンジン音などで信号が青になった事を判断されるのですが、
車の通行も歩行者も少ない場所などでは、信号が青に変わった時でも判断がつかない事があるそうです。
信号が青に変わったら、スマホのバイブでお知らせしてくれるようになって欲しいとおっしゃっていました。
自転車に乗っている時、後ろから車が来た事を教えて欲しい
これは、30代の聴覚障害者の方で、
自転車に乗っている時、後ろから車が来てもわからないそうです。
クラクションを大きく鳴らしてもらえば良いですが、遠慮がちな小さく短いクラクションでは気付くのが遅れるそうです。
後ろから車が来るのをハンドルのバイブやLEDの点滅でお知らせしてくれるようなものがあると良いな~との事でした。
AIが代わりにしゃべってくれるといい
これは、20代の発達障害を持つ女性の方です。
この方は、発達障害のひとつとして、他人に自分の思っている事が伝えにくい症状を持っていらっしゃいます。
さらに、相手に質問された時には、すぐに答えを返せない症状もあり、
周りの人がみんな気を使って話してくれなくなった事が寂しくて辛いという悩みを持っています。
誰かが話しかけてくれたら、
「すみません。答えるまでに少し時間がかかるので待ってもらっても良いですか?」
というような答えを、自然な形で相手に伝えてくれるようなアイテムがあったら嬉しい。
と、お話して下さいました。
パニックになった時、脳が落ち着くような機器があると良い
これは、10代の知的障害のお子さんを持つお母さんのご希望です。
このお子さんは、集中している時に他の事を言われるとパニックになり、暴れてしまう障害を持っていて、
いったんパニックになると、なかなか落ちつけないため、可哀そうな思いをさせていると悩んでおられます。
パニックになった時、脳波が落ち着くような機器があると、辛い思いをさせなくて済むとおっしゃっていました。
さいごに
テクノロジーの進歩は、確実に障害者の支援になります。
それは、障害者の人生を大きく変えるような大きな支援じゃなくても、
生活を助けるような小さな支援でも、障害者の方々はすごく助かります。
ただし、いくらテクノロジーが進歩しても、それを障害者へ結び付けてくれるようなシステムが無いと何にもなりません。
スマート・インクルージョンのように、テクノロジーの開発に関わっている方々が、
障害者の支援に目を向けて下さる事を期待しています!