認知症の早期発見のために 医療機関で行う検査や初期症状を解説!

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患者さんや、そのご家族から

「最近、物忘れがひどくなったんだけど・・・認知症じゃないかしら・・・」

なんて相談をよく受けます。

我々も現場では、簡易的な認知症の検査をよくしますし、

ちょっとした仕草や言動でも「ん?怪しい」と思った時は、

ご本人やご家族に病院受診を勧めたり、かかりつけ医に報告して相談したりします。

認知症とはどんなものなのでしょうか?

初期症状としてはどんな症状が出るのでしょうか?

病院では、どんな検査を受けるのでしょうか?

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認知症とは?

認知症は、特定の病気ではなく、

日常生活での活動に障害が出る、記憶力の低下や思考能力の低下を伴う

さまざまな症状全般を示す「症候群」です。

内閣府の発表では、平成28年の発表によると、

認知症患者数は、平成24(2012)年時点で462万人、平成37(2025)年には約700万人になると予測されています。

認知症の症状を引き起こす原因には、アルツハイマー病やレビー小体型認知症のように脳そのものに障害が出るものや、

脳卒中のように血管に障害があるもの、

進行麻痺、エイズ脳症など、スピロヘータ、ウイルスなどを原因とするもの、

甲状腺に障害がある場合や、ビタミン不足など、


さまざまなものがあります。

認知症の症状は?

認知症の症状は、
「中核症状」と「周辺症状」の2つに大きく分けられます。

中核症状

加齢や病気・ケガによって、脳が壊れる事で出る症状。

周辺症状

中核症状が元で、二次的に行動や心理面に出て来る症状。

それぞれの症状を実例で説明します。

中核症状の症状

①記憶障害
記憶として憶えられない、思い出せない。

実例

・朝ご飯を食べたかどうかがわからない
食事をされた直後に「まだ、ご飯食べてないんだけど?」などと言われる。

・トイレの場所がわからなくなった
何十年も住み続けているご自宅のトイレの場所がわからず、失禁される。

・さっき話した事を憶えていない
会話をしていると、同じ質問を繰り返す。

②見当識障害
年月日や時間、季節、場所、人との関係性が分からなくなる。

実例

・今が夏なのか?冬なのか?わからない
夏場、クーラーがガンガン効いた部屋で「今年は寒い冬だね」と言われる。

・今、自分がどこにいるのかがわからない
子供さんの家を、元々住んでいるご自宅と思っていらっしゃる。

・娘や息子を他人だと言う
施設にご面会に来られたご家族に「どちら様ですか?」と尋ねられる。

など

③理解・判断力の障害
物事の理解に時間がかかったり、複数のことの理解が難しくなる。いつもと違う出来事に混乱する。 曖昧さや推測するような表現は理解しにくくなる。

実例

・簡単な計算ができない
10円単位など簡単なおつりの計算ができない。

・トイレが間に合わず漏らす
食事をしながら尿意があっても、どちらを優先するか判断ができない。

・簡単な料理の手順がわからなくなる
何十年も作り続けてきた味噌汁を作る手順がわからなくなる。


・「あの人が…」「それを…」と言われても何を指すのかわからない。
自分が持っているハサミを、奥様から「それ貸して」と言われても「それ」が何か判断できずケンカになる。

など

④実行機能障害
物事に計画を立てて実行することができなくなる。予想外の出来事に対応できない。

実例

・簡単な段取りが組めなくなる
夕飯のメニューを決めていても、スーパーで何の材料を買っていいか分からない。

・家事を同時にこなせない
洗濯をしながら掃除ができなくなる。


・いつもと違う事が起こると対応できない
家族がいつも来る時間に来ないとパニックになる

など

⑤失語
言葉を司る脳の部分の損傷で、言葉がうまく使えなくなる。
失語には、運動性失語(ブローカ失語)と感覚性失語(ウェルニッケ失語)があります。

・運動性失語(ブローカ失語)
相手の話は理解ができるが、言葉が出にくくなったり、考えている事と違う事を言ってしまう。文字を書くことも難しくなる。

実例

・「テレビ」と言われたらテレビだと分かっているが、口に出すとどうしても「時計」と言ってしまう
・言いたい事があっても、なかなか言葉が出てこない
・文章でも同じ事が起こって書けない

など

・感覚性失語(ウェルニッケ失語)
言葉は流暢に出てくるが、相手の言葉の意味を理解することが難しくなる。

実例

・ 「テレビ」と言われてもテレビが何なのかがわからない
・質問をしても全然関係の無い答えが返ってくる
・文章でも同じ事が起こって読めない

など

⑥失認
視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚という感覚を脳が上手く処理できなくなる症状。

実例

・身体失認
自分の手足を他人のものと思っている

・半側空間無視
ピザを目では見えているが、半分しか無いと思ってしまう

など

⑦失行
麻痺ではなく、わかっているはずの動作が行えない状態。

実例

・着衣失行
ズボンの履き方がわからなくなり、頭からかぶる

・観念運動失行
ハシやはさみの使い方がわからない

・肢節運動失行
手を挙げようとしても足を挙げてしまう

など

 

周辺症状の症状

①不安・抑うつ
・自分の異常を自覚して、不安・焦り・落ち込みなどの感情。
・周囲の対応にイライラ・不機嫌・怒り・興奮する。
・意欲の低下・思考の障害。
など

②徘徊
・記憶、見当識、判断力の障害により、どこに行けば良いのか?どこに戻れば良いのか?が分からなくなる。
・行方不明、脱水、過労、転倒、交通事故などの危険がある。

③被害妄想
・記憶障害により、いつ・どこに・何を持っているかを忘れ、探しても見つからず誰かが盗んだのではないかと家族や介護者に疑いの目を向ける。

④せん妄
・幻覚、錯覚、不安、精神運動興奮、失見当識など。
・誰も話し相手が居なくなる夜間に出る事が多い(夜間せん妄)

⑤幻覚・錯覚
・幻視、幻聴、幻触、幻味、幻嗅など、実際には存在しないものを現実と混同する。

⑥暴力・暴言・拒否
脳の障害で、感情が抑えられない状態となり、不満・不安・苛立ちがきっかけで暴力・暴言・拒否が出る。

⑦弄便(ろうべん)
・失禁したりオムツの中の大便を手で触れたり掴む。
・大便を自分の体・寝具・壁などに擦りつける。

⑧失禁
・記憶・見当識の障害でトイレの場所が分からなくなる。
・記憶障害でトイレに行きたかった事を忘れる。
・尿意・便意を感じにくくなり、トイレに行くのが遅れる。
・判断力の障害でトイレにいつ行くかどうかの判断が遅れる。

⑨不眠・睡眠障害・昼夜逆転
・加齢によるホルモン分泌の変化で睡眠のリズムが保ちにくくなる。
・日中の活動量が減り、睡眠・覚醒のリズムが崩れる。
・記憶・見当識の障害が合わさると夜中に家事をしたり外出しようとする。

⑩帰宅願望
・記憶・見当識の障害で、今の家は自分の家じゃないと思い込む。
・女性の場合、家事や子育てをしなければいけばいけないと夕方に出る事が多く「夕暮れ症候群」と呼ばれる。

⑪摂食障害
・嚥下障害が出る事がある。
・逆流性食道炎・胃炎などで不快感があっても伝えられない。
・嚥下障害や病気などがあると食事の意欲が低下する。
・記憶・見当識の障害で食事した事を忘れて食べ過ぎ、嘔吐や食欲減退につながる。

⑫異食
・記憶・見当識・判断力の障害で食べられる物かどうか判断ができなくなる。
・消化できないものや毒物を食べて大きな問題になる事もある。

⑬性格変化
・にこやかだった人が怒りっぽくなる。
・几帳面だった人が大雑把になる。

これらの認知症の症状は、疾患や体質、環境などで様々な出かたをしますが、

・記憶力
・コミュニケーション能力や言語力
・集中力や注意力
・論理的思考力と判断力
・視覚認知力

以上の主な精神機能のうち、2つ以上大きく損なわれると、認知症とされます。

認知症の初期症状は?

認知症の初期症状としては、認知症の原因となる疾患や、ご本人の性格・置かれている環境などで出かたが変わりますが、

基本的な初期症状として、

認知症の初期症状

記憶障害
・同じことを何度も言う。
・忘れ物や探し物が多くなる。

見当識障害
・日時や場所を間違える。

不安・抑うつ
・落ち着きがなくなる、ひどく落ち込む。

理解・判断力の障害
・簡単な作業や計算に時間がかかる。

実行機能障害
・家事などいつもやっている事を失敗することが増える。

性格変化
・温厚だった人が怒りっぽくなる。

 などの変化がみられます。

この中で、最も目立つのが記憶障害です。

記憶障害は、年齢的なもの忘れと混同されがちですが、

加齢による「生理的な物忘れ」と、認知症による「記憶障害」では、

加齢による生理的な物忘れ 認知症による記憶障害
物忘れを自覚している 物忘れの自覚がない
行動したことの一部を忘れる 行動したこと自体を忘れる
ヒントがあれば思い出す ヒントがあっても思い出せない
日常生活に支障はない 日常生活に支障がある
判断力は低下しない 判断力が低下する

のような差があります。

例えば、「自覚しているか?」で例を挙げると、

「最近、物忘れがひどくて・・・認知症じゃないのかな?」


と、よくご相談を受けますが、

「物忘れがひどくて」と、言っていらっしゃるうちは、まだ「忘れた事を憶えている」ので、生理的な物忘れの段階ですから、大丈夫です。

認知症だと、こちらから「〇〇を忘れていますよ」と指摘すると、忘れている事に自覚が無いので、

「私が忘れるわけないでしょ!あなたが間違ってるの!」


と、忘れている事を認められません。

「行動したこと」で例を挙げますと、

加齢による生理的な物忘れでは、朝ご飯を食べた事は覚えているけど、

「メニューを思い出せない」「何時ごろ食べたのか確定できない」


という感じですが、

認知症の記憶障害では、「食べた事すら忘れている」となりますので、

我々が接している認知症の患者さんは、30分前に食事をしたのを忘れておられ、

「ここの施設は食事も出さない!」

と、憤慨しておられる姿も珍しくありません。

これらの初期症状がみられたら、認知症が疑われますので、病院受診される事をオススメします。

病院受診すれば、認知症専用の検査がありますので、

「ただの加齢としての問題なのか?」
「認知症の疑いがあるのか?」


ハッキリ診断が出ます。

認知症の検査ってどんなもの?

病院での検査では、一般的に

・問診
・機器検査
・神経心理検査

などを行いますが、ほとんどの場合、まず問診から始まります。

問診の内容は、

問診

今困っていることや感じていること
・物忘れがひどい
・普通にできていた事ができなくなった
・自分が正しいと思っていても、皆から注意される
・周りの人間が信じられなくなった
など

今かかっているほかの病気、飲んでいる薬など
・糖尿病があるので、薬を飲んでいる
・夜、眠れないので、睡眠導入剤を飲んでいる
・血圧が高いので、降圧剤や利尿剤を飲んでいる
※必ずお薬手帳を持って行って下さい

今までの病気やけがなど
・脳梗塞をした事がある
・心筋梗塞になった事がある
・甲状腺を手術したことがある
・最近、交通事故で頭を打った
など

次に、

機器診断

身体状態の診断
・血圧
・心電図
・血液検査
・レントゲン
など

脳の画像検査
・CT
・MRI
・PET(SPECT)
・MIBG
など

これらの機械を使って身体の状態や、脳の機能を検査します。

次に、「神経心理検査」という検査を行いますが、

これは検査員とコミュニケーションを取りながら、口頭での返答や紙に字や絵を書く事で認知症かどうかを判断します。

神経心理検査では、

・HDS-R(長谷川式認知症スケール)
・MMSE(ミニメンタルステイト検査)

がよく使われます。

神経心理検査

HDS-R(長谷川式認知症スケール)(所要時間:6~10分)

年齢、見当識、3単語の即時記銘と遅延再生、計算、数字の逆唱、物品記銘、言語流暢性の9項目からなる認知機能検査で、30点満点のうち20点以下が認知症の疑いがあると判断されます。

MMSE(ミニメンタルステイト検査)所要時間(6-10分)

時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼称、文章復唱、3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の計11項目から構成される検査です。
30点満点のうち23点以下が認知症の疑いがあると判定されます。

神経心理検査には、これらの検査以外にも、

・Mini-Cog(言葉の遅延や時計描画を組み合わせた検査)
・MoCA(空間・遂行・命名・記憶・注意力・復唱・語想起・抽象概念・遅延再生・見当識の検査)
・ DASC-21(認知機能障害と生活機能障害に関連する行動の変化を評価)

などの検査がありますが、病院ではあまり使われる事はありません。

また、ドクターごとに検査や診断が変わりますので、神経心理検査で認知症の点数になったとしても、認知症だと確定される訳ではありません。

気になる方は、複数の病院を受診されても良いと思います。

ちなみに、私が自分で長谷川式認知症スケールをしても、野菜の名前をあまり知らないので、満点は取れません。

病院受診の際に、必ず気を付けなければいけない事は、

ご本人お1人ですと、憶えていない事があったり、恥ずかしさから誤魔化そうとされて、正確な診断ができませんので、ご家族など、

最近のご本人の行動をよく知っている方”


が必ず同伴して下さい。

認知症は早期発見が大事 医療機関で行う検査や初期症状を解説! まとめ

まとめ

1 認知症とは?
日常生活での活動に障害が出る、記憶力の低下や思考能力の低下を伴うさまざまな症状全般を示す「症候群」です。
認知症の症状を引き起こす原因にはさまざまなものがあります。

2 認知症の症状は?
「中核症状」と「周辺症状」の2つに分けられます。

2.1 中核症状
加齢や病気・ケガによって、脳が壊れる事で出る症状
①記憶障害
②見当識障害
③理解・判断力の障害
④実行機能障害
⑤失語
⑥失認
⑦失行

2.2 周辺症状
中核症状が元で、二次的に行動や心理面に出て来る症状
①不安・抑うつ
②徘徊
③被害妄想
④せん妄
⑤幻覚・錯覚
⑥暴力・暴言・拒否
⑦弄便(ろうべん)
⑧失禁
⑨不眠・睡眠障害・昼夜逆転
⑩帰宅願望
⑪摂食障害
⑫異食
⑬性格変化

3 認知症の初期症状は?
・記憶障害
・見当識障害
・不安・抑うつ
・理解・判断力の障害
・実行機能障害
・性格変化
など

4 認知症の検査ってどんなもの?
病院での検査では、一般的に・問診・機器検査・神経心理検査などを行います。

4.1 問診
今困っていることや感じていること・今かかっているほかの病気、飲んでいる薬・今までの病気やけが、などが聞かれます。

4.2 機器診断
身体状態の診断として、・血圧・心電図・血液検査・レントゲンなど

脳の画像検査として、・CT・MRI・PET(SPECT)・MIBGなど

4.3 神経心理検査
HDS-R(長谷川式認知症スケール)・MMSE(ミニメンタルステイト検査)がよく使われます。

 

認知症の特徴として「自覚が無い」というお話しをしましたが、自覚が無い事で、認知症の発見が遅れる事がよくあります。

私が担当した患者さんでは、正常な状態から2週間で自宅のトイレが分からなくなるほど認知症が進んだ方もいらっしゃいました。

我々のようなプロが関わっていれば、ご家族でも気づかない兆候を察知できますので、

「おかしい・・・」と思った時は、すぐにご家族やかかりつけ医に報告・相談しますが、

プロが関わっていない場合は、ご本人の性格や言動・行動をよく知っているご家族など身近にいる方じゃないと初期症状に気付きません。

ご高齢のご家族をお持ちの方は、できるだけご本人とコミュニケーションをとり、小さな変化を見逃さないようお気を付け下さい。

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